猫を起こさないように
世界はぼくらの手の外に
世界はぼくらの手の外に

世界はぼくらの手の外に

  『ああっ。やめてえや。うちそんなんとちゃう…うち、そんな女とちゃう…ああ…やめて…うち、うち…ほんまは、あんたの…欲し…ねん…』という具合に目的語を曖昧にすることで、全国六千万の婦女の中に存在する動物的エロスをいたずらにかきたててみる小鳥さんですよ、わんばんこ。という具合にすでに使い古されたコトバをさりげなく日記に含ませることで、全国六千万の婦女の子宮に至急に郷愁にも似た哀切な恋愛感情をいたずらにかきたててみる小鳥さんでも同時にあるんですよ、みゃぁお。『いやぁん、猫。かわいぃぃ』という具合に動物と子供を出しておけば視聴率はとれるんですよ的に人間存在を軽視してはすにかまえて世の中を見ることで生きることを楽にしている、本当はとても寂しい、本当は現実がその自分の浅薄な人間理解を裏切ってくれることを初心な乙女の純情さでもって期待している、しかしいつだってその浅薄さを裏切らない公式どうりの反応が確実に返ってくるだけ、日常に世界への憎悪と絶望をしんしんとつのらせていくテレビ関係者のように、動物の鳴き声を日記に織り込むことで全国六千万の婦女の中に潜む獣的な自己再生産欲求をかきたてて、『どうです、お嬢さんいっしょに夜明けのコーヒーでも』と小鳥さんですよ。
 結局誰も、本当の意味では、ぼくに気がつかなかったのだろう。