この世界の片隅に
映画というのは、言葉にできない感情を表出するための芸術形態なのだという。監督の特質を推察するに、言葉と考証の人なのだと思う。アリーテ姫においては、雄弁すぎる登場人物がすべてのテーマを言葉で語り尽くしており、冒頭の定義で言うならば、映画として成立していなかった。しかし、今回の監督は原作を越える言葉を加えず、ただ考証の緻密さにに徹しており、それが最大の効果を発揮しているのだ。そして主人公役の“ウイ”ではない方の女優が物語終盤で発する「アホのまま死にたかった」みたいな台詞は、奇しくも彼女自身の置かれた境遇を代弁しており、一種ドキュメンタリーのように響くのである。現在、どうやら芸能界から干されてしまっている彼女は、しかしながらこの国の存続する限り視聴され続けるだろう傑作に名を残せたことを喜ぶべきであろう。そう言えば、3月11日に向かう物語と、8月6日に向かう物語という点でも、シンクロしてますね。