猫を起こさないように
ジャンゴ
ジャンゴ

ジャンゴ


ジャンゴ


会話劇で高まりに高まったテンションを、突然の暴力で解放するタランティーノ節は健在で、いつものことながら座り小便を漏らすほど面白い。同監督の作品でベストに上げたキル・ビル2が、その位置を入れ替えそうなほどの勢いである。しかしながら、ヒーローであるはずのジャンゴが、シュルツ医師のキャラクターに完全に食われてしまっているのが残念だ。結局のところ、物語の最終盤でジャンゴを駆動するのは「奴隷解放以前のミシシッピ州にいる黒人」という背景的な部分であり、ドクター・キング・シュルツの用いた手法を表面だけトレースした、彼の内面に根ざさない動機だ。この物語の真の主人公はシュルツ医師であり、死を賭してディカプリオ扮するカルヴィンとの握手を拒んだ魂の高潔さこそが、人間性への賛歌をうたいあげ、彼をヒーロー足らしめているのである。その直後、ジャンゴによって行われた殺戮は、外部刺激への反射にも似た暴力に過ぎず、シュルツ医師の持っていた主人公の格を引き継ぐには至らなかった。タランティーノ監督の作劇に弱点があるとすれば、あまりに魅力的に悪役・脇役を描きすぎるので、ときに正義は説得力を失い、主人公は色褪せてしまうところだろう。黒人の主人公が白人の脇役をその魅力で上回れなかったことは、監督が意図する人種差別へのメッセージを真逆に伝えてしまいかねない。もちろん、こういう観点で視聴すべき作品ではないこともわかる。未見の諸氏はネット泡沫のバブリングに印象を左右されず、ぜひ自分の目で内容を確かめて欲しい。