猫を起こさないように
ゲーム「ドラクエ1リメイク」感想
ゲーム「ドラクエ1リメイク」感想

ゲーム「ドラクエ1リメイク」感想

 ドラクエ1リメイクを13時間でクリア。原作の物語の「竜王の島にわたる方法を探す」「竜王をたおす(姫の救出は任意)」という2行しかないキュウリサンドみたいな行間に、でっぷりとソースを塗りつけたブ厚いトンカツをはさみこみ、パン生地のなかばまで茶色が浸潤したカツサンドみたいな作品であり、カンダタやローラ姫の親衛隊など、オリジナルにはなかった要素をこれでもかと盛りこみ、ずっと曖昧にされていた「3の勇者は、ついに元の世界へは帰れなかった」ことを、史実として確定させてしまった。つまり、リメイク3部作を通してふりかえれば、がSFC版のレシーブで「伝説のための土木工事」を行い、1が「母との再会かなわぬ勇者」というトスをあげ、が「はるかなる故郷への帰還」をスパイクするセットアップになっていて、ホーリー遊児による「アリアハンの生家へ、オルテガのかぶとを返す」というビッグアイデアa.k.a.思いつきのために、偉大なる3を踏み台にしたのはまったくもってゆるせないが、「母なる者を救済する、美しい構造」を形にする欲望にあらがえなかったのだろうと想像する。ゆえに、令和のリメイクは312の順でクリアするのが”正規ルート”なのだが、これにしたがった場合、1が2の到達への阻害要因になる可能性は、低くないように思う。なんとなれば、リメイク三部作の中で1だけが3とも2ともちがう、これまでのどのシリーズ作品とも似ていない、「異形のドラゴンクエスト」になっているからだ。

 2がストーリーに対して行ったように、1でグシャグシャに換骨奪胎されたのは戦闘システムで、イライラばかりがつのる多対一の雑魚戦や、初見で撃破することはまず不可能な死に覚えのボス戦は、過去のドラクエをよく知る者ほど深くハマりこむ、北斗逆死葬ーーnWo3度目の登場ーーのような泥沼である。ボス戦の攻略の手順をお伝えすると、ターン毎に決まっている敵の行動を、チビた鉛筆でチラシの裏に記述することからはじまる。それから、もっとも攻撃の苛烈なターンを「だいぼうぎょ」でしのぎ、比較的ゆるやかなターンを「リホイミ」「超ちからため」「弱点技」でダメージ累積するという、従来のドラクエとは完全に異なったゲーム性になっているのである。ここで注意したいのは、「弱点技」を「超絶技」に変じてはならない点で、後者はダメージあたりのMP効率が非常に悪く、長期戦にはまったく向いていない(ウーッ、ワナッ!)。さらに、ボスの体力が半分を割りこむと、シャドウ・オブ・ザ・エルドツリーばりに行動パターンが変化し、チラ裏メモ作戦は再びふりだしにもどる。ボス戦の攻略法をまとめると、「パターン1の行動観察」「死亡」「パターン1の撃破およびパターン2の行動観察」「死亡」「パターン1とパターン2の撃破」と最低でも”必ず”2回死ななければ、たおせない仕様となっているのである。これはもっとも乱数がうまくいったケースであり、ここに「つうこん」「かいしん」「ミス」「かいひ」が運要素として大きくからんでくる。

 特にボス戦は、「つうこん」イコール即死ないし瀕死みたいな調整がなされているため、余剰ターンにスカラをかけることで安定性を高めるのだが、主人公はスカラをおぼえない。未プレイの諸君の頭は、ときすでにメダパニ状態と推察するが、本作では武器防具をアイテム使用したときの効果に補助魔法が付与されていて、「ようせいのけん」のスカラに気づけるかが攻略の大きなカギとなる。特定の防具とアクセサリに付与された氷と炎への耐性も重要で、複数装備によってブレスを無効化し、余剰ターンを作りだす必要性から、最終装備がロトシリーズにならないという、ロトの伝説をかきみだす弊害ーーやまびこのぼうしとガイアのよろいで竜王を討伐ーーまで生みだす始末である。また、ゲーム終盤に必須の「ベホイム」と「めいそう」はレベルアップで修得せず、それぞれ本棚とメダル景品に巻物として配置してあり、探索をしっかりしておかないと、明確な”詰み”さえ生じるのだった。大問題なのは、ここまで述べてきたような、従来のドラクエとは大きく異なる、「コマンド式ソウルライクRPG」的なプレイを強いられるにも関わらず、その抜本的な変更がゲーム内でいっさい触れられない点であろう。

 諸君がいだくだろう、「ドラクエなのだから、レベルを上げることで解決できるのではないか」との疑問には、「多対一の雑魚戦」が別の問題として立ちあがってくるのである。モンスター側が複数回攻撃にくわえて、「眠り」「麻痺」「すくみ」などの行動阻害を頻繁におこなうため、ひとつひとつの戦闘が長期化する上に、勝敗の結果はあまりに大きく運の要素に左右されてしまう。「イラつきすぎて、レベリングなんてやってられない」ため、制作側の想定する適正レベルかそれ以下で、中ボスたちと対峙しなければならない状況が、ずっと存在し続けるのである。エイリアンフライあたりで、マジメにメモをとるのがもうバカらしくなって、攻略サイトに書いてある”正解の手順”をそのまんまトレースしだすと、あとは「”瀕死の奴隷”の足下にはべるサル」みたいに、クリアまでのすべてを他者の模倣に終始するハメとなるのであった。そのくせ、最終盤でやまびこギガデインが解放ーーこれまでの苦労はどこへやら、開幕の2連発であらゆる雑魚を完全封殺ーーされると取得経験値は過剰ぎみとなり、ラスボスである竜王はレベル差で虫ケラのように轢き潰せるため、全ボス中でもっとも弱く感じるという本末転倒なバランスにしあがっている。

 全体的に、専門学校へ通うゲーム作りの初学者がRPGツクールでしあげた、「ぼくのかんがえるさいきょうのどらくえ」みたいな中身になっていて、楽しいはずのドライブに出かけたら、助手席の不機嫌なモラハラ・パートナーが大きなため息とともに、道順から速度からブレーキのタイミングまで、ギチギチに指図ーー「ハーッ、いまのは『だいぼうぎょ』のターンだろ? オマエは本当にドンくさいな!」ーーしてくるような窮屈さと不快さだとたとえれば、未プレイの女史にも伝わるかもしれない。このゲームをほめる評を書いている人物を見かけるにつけ、世界の広大さと人間の多様さへ感心する気持ちにはさせられるが、ぜったいに彼らを同僚や上司には持ちたくない。まずもって、社内にある「ハンコを捺印するさいの傾斜」に類するアンリトン・ルールをいっさい教えず、新人が失敗するのをニヤニヤ見過ごすことに優越感をおぼえるような、ゆがんだ性根の持ちぬしであるにちがいないから!

 あと、ローラ姫まわりも意味不明で、FC版では裏技的あつかいだった「エンディングまで冒険に連れまわせる」バグ?を、本リメイクにおいては仕様にまで昇華させ、すべてのイベントで無口の主人公をさしおいて、ボイスつきでしゃべりーー竜王への口ごたえまで!ーーまくり、終盤では”ローラの祈り”で戦闘補助までこなすくせに、うっかりラダトームの城の門をくぐったが最後、選択の余地なく強制離脱させられてしまうのである。ごていねいに別れの夜のイベントがさしこまれて、オートセーブを上書きされたーーこまめに冒険の書へ記録しようねーーのは本当にムカついたし、「ローラと最後まで冒険したかったら、2周目からがんばってね!」とでも言わんばかりの、ゲームの盤外で行われる他メディアとの苛烈な可処分時間戦争にきわめて無頓着なふるまいには、怒りをとおりこしてあきれるしかない。徹頭徹尾オールドファンを挑発し、ニューカマーに不親切なゲーム性であるところのドラクエ1リメイク、こんなものを認めてはnWoの沽券にかかわるため、すべての人類にオススメすることはできない。