猫を起こさないように
ゲーム「崩壊スターレイル第4章・明日は昨日に」感想
ゲーム「崩壊スターレイル第4章・明日は昨日に」感想

ゲーム「崩壊スターレイル第4章・明日は昨日に」感想

 崩壊スターレイルのバージョン3.7をクリア。1年近くにおよんだオンパロス編は、ここに堂々の完結をむかえました。この英雄譚は、はじめて彼の地へと足を踏みいれたときには想像だにしなかった、はるか遠い場所にまで我々を連れてきてくれたのです。生粋のストーリーテラーの脳内にあふれる物語を、湯水のようにこれでもかと間断なく浴びせかけられる体験は、長らく忘れていた書痴的な快楽でもありました。「最後の創世と火追いの旅」と「銀河の各勢力が結集する”壊滅”との対峙」を同時進行で見せながら、生命がかくある理由の深奥へと大きくせまり、クトゥルフ神話を彷彿とさせる狂気の神々までをも開示する、少年を主人公としたかつての物語類型がさまざまな理由から、絶頂の手前で頓挫させてきた、「世界という究極の謎」の解決ーー本邦でこれを達成したのはランス10のみで、FGO終章がより一般的な場所で同様の期待を背負っている状況ーーへ果敢に挑戦していく姿勢と、まばゆいばかりの才気のきらめきには、めまいのような感動をおぼえました。マダム・ヘルタと天才クラブの面々による丁々発止のやりとりは手に汗をにぎりましたし、にッくき仇敵ザンダーの弁にも理があると思わせる描き方は、本邦に主流の「IQ90の主人公をIQ50が平均の世界に置いて無双(笑)させる」作品群とは、視座の高さが天地ほども異なります。三千万回もの「読み聞かせ」が、ただの機械に過ぎなかったものの内側に”愛”を生じさせる過程や、巨大アヤナミを思わせる美少女とオクヘイマの12柱による”壊滅”との最終決戦は、ここにいたる膨大な積みあげがあるからこその、「激しい情動のドラマツルギー」へと昇華していました。このように、基本的な評価のベースは「観客席で滂沱の涙を流しながらブラヴォの拍手を送るスタンディング・オベーション」でありながら、上品に口を閉じておけず、苦言も同時に呈して読後感を汚すまでが、nWo節と言えるでしょう。

 ようやく重い腰を上げて参戦したサンデーが事態の解決になんら貢献しなかったのは残念ですし、”壊滅”への対処に向けた各勢力の内幕がROUGHでのシンクン・ソード将軍一派のものしか詳細に語られなかったのは不満ですし、オンパロスに結集した各勢力による銀英伝みたいな絵ヅラの艦隊戦が、ほんの短いムービーで終わってしまったのは、じつに拍子ぬけでした。なにより気になったのは、本章のライターから一身に恩寵を受けるキュレネの存在で、最初のうちは絶望の輪廻のうちにあって底抜けに前向きな言動や、冷厳なる論理による計画を”愛”のぬくもりで溶かそうとする在り方に涙が止まらなかったのですが、まさかこのピンク髪ポジティブ美少女モンスターのポエム語りだけで、最後まで走りきるとは思わないじゃないですか! たとえるなら、「ふわふわあま〜いパンケーキのおみせ」にはいったら、イクラかけほうだいならぬ、クリームとシロップかけほうだいのサービスをやっていて、マッチョ2めいが「おきゃくさまのタイミングで、ストップをもうしつけてください」といいながら、バケツからひしゃくですくったクリームとシロップをかけはじめるのですが、ディッシュをこえてテーブルにはみだして、ついにフロアにまでボドボドこぼれはじめて、おおごえで「ストップ、ストーップ!」とさけんでいるのに、おしかつんぼみたいにつうじなくて、「キミがッ、なくまでッ、かけるのをやめないッ!」とばかりに、クリームとシロップをかけるのをやめてくれないようなものです(バージョン3.7結部におけるロマンチックな”知恵”の融解現象を表現するため、ひらがな表記にしてみました)。特定のキャラクターに対する作り手の思い入れが、全体のバランスまで傾けた見本となってしまっており、なにか別のやり方があったのではないかと感じてしまいます。

 そして、「宇宙を救う活躍をした綺羅星のごとき英雄たちーー初期キャラのカフカや銀狼がかすむレベルーーは、どこまでもデータ上の存在にすぎず、出版された物語として現実に弱い影響を与えるのみである」という結末が、「どれだけ稼いで企業体として拡大したところで、つむがれたフィクションに現実の紛争や虐殺を止める力はなく、社是である”TECH OTAKUS SAVE THE WORLD”が達成される日は来ない」との内省だか諦念から来ているのだとしたら、あまりに生真面目でナイーブすぎると言っておきます。他のゲームでたとえるなら、「ボーダーランズの中にタイタンクエストがあって、タイタンクエストで育てたキャラはボーダーランズでは使えない」みたいな状況は、あまりにもったいなさすぎるでしょう。Gガンダムの最終回みたく、リアリティ・ラインを著しく下げ、オンパロスの英雄たちを受肉させて、スターレイル宇宙をみんなで冒険するほうが、ずっと楽しくてワクワクするにきまってるじゃないですか! まだ本章のバージョン更新が残っているみたいなので、ホヨバさん、ひとつたのみますよ!