猫を起こさないように
アニメ「機動戦士ガンダム・ジークアクス(11話まで)」感想
アニメ「機動戦士ガンダム・ジークアクス(11話まで)」感想

アニメ「機動戦士ガンダム・ジークアクス(11話まで)」感想

 生来のガンダム下手で、再放送によるガンプラブームをリアルタイムに経験し、逆襲のシャアも初映を映画館で見ているはずなのに、本シリーズに心を動かされたことが、まったくと言っていいほどありません。愛好家たちの語り口がおそろしく類似している点からも、炎上を避けるために肯定的な表現で申すならば、ガンダムは「数字や型式の暗記が得意な、知能の高い人物に特有の発達特性」へ深く刺さる物語造形なのではないかと、ずっと疑ってきた人生なのです。そんなわけでジークアクスに関しては、毎週の沸騰するタイムラインを横目に、資格のない者が余計な口をはさむまいと貝になってきたのですが、11話の放映でガンダム下手にもさわれる位置まで墜(堕)ちてきたーー最後の最後でビルドアップの積み木崩しをして、架空戦記としての軟着陸を放棄して、安直な「虚構内虚構」へと走ったストーリーについて、以前は「高い城の男」になぞらえていたことをディックに謝罪したいですーーことと、Qアンノのそらとぼけた「ボクもやりやがったと思ってる」発言にカチンときて、最終話の放映前にちゃんと真相を解明しておこうと思いたった次第です。

 ジークアクスはシンエヴァ副監督のスタートさせた企画とのことですが、「アバンタイトル5分で終わらせるはずだった”正史のif”」をQアンノが映画1本分に膨らませたところから、本作の方向性はゆがみはじめたと言えるでしょう。仮面ライダーがこの怪人を釘づけにしているうちに、さっさとプロットを固めてしまえばよかったものを、7年もの制作期間が日本3大オタクのひとりにつけいる隙をあたえてしまい、「ガール・ミーツ・ガール」の本筋をどんどん浸食して、半世紀前のロボットアニメからの汚染を拡大させてしまったのです。ビギニングでの狼藉が存外な好評価を得たことへ気をよくしたQアンノが、ウッカリ口をすべらせた「マッキーたちは、まだ禿頭の御大に遠慮してる」発言は、関係者の言う「制作の途中で、最初に用意したストーリーを大幅に改変することとなった」原因の震源地に彼がいたことを証明してしまっています。その変更とはズバリ、「”シャロンの薔薇”の正体はなにか?」という謎解きの中核部分で、映画を分割した2話と8話に続いて、テレビ新作パートのみの9話に、脚本担当としてQアンノの名前があることからも、あきらかでしょう。これは本来、シンエヴァ副監督が幾度も再話ーー栗本薫がそうだったように、同じテーマをくりかえし追い求めるのは、優れたストーリーテラーの資質でもあるーーしてきた「若さの喪失におびえる、少女たちの青春譚」の添えものに過ぎなかった要素が、メインディッシュへとすりかわった瞬間でもあります。

 8話までは、この2つの要素が拮抗しながらも、どちらを上に置くでもない、ちょうどいい塩梅で調理がなされていました。緑のヒゲ(マン)が口にした「総帥とその妹を同時に排除する計画」が物語終盤の本筋だったのでしょうし、ファーストガンダムにいっさい思い入れを持たない”物語至上主義者”からすれば、9話以降の展開は「奇妙な磁力にねじ曲げられた、不自然の変節」にしか見えないわけです。もちろん、その磁場の発生源は社長・Qアンノであり、「もうガンダムは満足した」との発言は、ビギニング・パートに由来すると考えてきましたが、どうやら「初代ガンダムを3DCGではなく、自身の手描きで動かしたい」という欲求が満たされたからであるような気がしてきました。最終話でのアニメーター・Qアンノによる手描きの”ガンダム無双”は、45年来のファンを狂喜させるすさまじいクオリティで饗され、申しわけ程度に主人公がチョロっと活躍して痛み分けぐらいの印象にもどして、ジークアクス世界とオリジナル世界の並立みたいな落としどころを見つけるのでしょうが、サイコガンダムの予告と単騎による大気圏突入のさいに、まざまざと幻視した「新世代が心の熱量だけで、旧世代の冷めた諦念をうち砕く」ことによって、主人公が主人公たる資格を真正面から証明する機会は、残念ながら永久にうしなわれてしまいました。

 Qアンノの偏執狂的な「クシャナ殿下のこのアクションだけをアニメ化したい」に類するこだわりによって、点景へまで追いやられた少女たちの「喪失と成長を交換する物語」をじっくり見たかったというのが、小鳥猊下のいつわらざる本音です。ジークアクスは「ガンダムシリーズの復興」という観点からすれば、商業的な大成功となったのかもしれませんが、物語の自走性とキャラクターの自我を無視したという意味においては、あの「親に捨てられた14歳の少年」に対する仕打ちとまったく変わるところがないと、ここに吐き捨てておきましょう。以上、ガンダムという単語を聞いても心の天秤が完全にフラットな、古い物語読みからの世迷言でした。くれぐれも、古参ファンのみなさまにおかれましては、気を悪くなさらぬように! この予想が外れることを、同時に願ってもいるのですから!