二月は節分で酒が飲めるぞ。酒が酒が飲めるぞ、酒が飲めるぞ。

愛と幻想のファシズム

 「やめろ、やめてくれ」
 「トウジは本当のことを言うだけなんだ」
 「あなたは重度のロリコンです。どのくらいロリコンかというと、麻雀をする際にドラ山とツモ山の間にできる谷間を直視できず、終始顔面を真っ赤にしたままうつむいているほどのロリコンです。また、三元牌のうち白をツモったとき、それがまるで高熱を発する何か合金ででもあるかのように放り出し、『ちがう、ちがうんだよ、ぼくは』と言いながら顔面を真っ赤にするほどのロリコンです」
 「やめろ、やめてくれ」
 「トウジは本当のことを言うだけなんだ」
 「あなたは重度のロリコンです。どのくらいロリコンかというと、大学の英書購読の時間に『ローリング・ストーンズ』という固有名詞を含んだ一連の文章を起立して朗読するように指名され、顔面を真っ赤にしたまま二十分も『ろろろろろろーりろりろり』とどもり続けて教授の不興をかい、その年の単位を落としたほどロリコンです。また、そのとき同時にちんちんまでも起立しているのを隣に座っていた女子に発見されクラス内で孤立し、飲み会にも誘ってもらえなかったほどのロリコンです」
 「やめろ、やめてくれ」
 「トウジは本当のことを言うだけなんだ」
 「あなたは重度のロリコンです。どのくらいロリコンかというと、街で十歳以下の少女を発見したとき、心臓はディズニーのようにハートマーク状に外から見てもわかるほど跳ね上がり、唇はチアノーゼをおこして青ざめ、はげあがった頭皮からは白い湯気がもうもうと立ちのぼり、視野は脳貧血で狭窄し、ちんちんは勃起し、その先端より名状しがたい種々の液体をとめどなく噴出するほどのロリコンです。また、その猛り狂った暴れん坊を隠そうと内股で前傾姿勢をとるもかえってあやしまれる結果となり、警察を呼ばれ一晩くさいメシを喰うほどのロリコンです」
 「やめろ、やめてくれ」
 「トウジは本当のことを言うだけなんだ」
 「そしてゼロ、あなたも重度のロリコンです」
 「ど、どうしてそれを」
 「あなた方ふたりは重度のロリコンです。どのくらいロリコンかというと、本屋にそういった種類の本を求めるとき、同じ本を手に取った相手に『お互いしょうがありませんな』という同病者の微笑みを返すほどのロリコンです。しかしこの場合は共犯者といったほうがより社会的な正確さが増すでしょう。また、レジのおねえさんに、バイトをはじめたばかりの人間がしばしばそうであるような張り切りぶりで、『”新版コンパクト六法” ”ロリータ調教~アリスの秘蜜~” ”社会学入門” 以上三点でよろしいですね。お会計五千四百二十三円になりま~す』とマニュアル通り店中に響きわたるような朗らかな邪気のない大声で応対され、周囲から向けられる白い目に行き場のない白痴的な笑顔を空中へとさまよわせながらいつまでも立ちつくすほどの腐れロリコンどもです」
 「やめろ、やめてくれ」
 「やめろ、やめてくれ」

ドラ江さん

 「なぁ、のび太」
 「なんだい、ドラ江さん」
 「ドリキャス楽しいか」
 「うん、楽しいよ。現実には不向きなぼくの内向的な性格でもドリームネットでたくさんともだちができるんだ」
 「さよか。それはよかったの」
 「どうしたの? 今日のドラ江さんなんだかおかしいよ」
 「(打ちっ放しのコンクリート壁で煙草をもみ消しながら)だったらもう、ワシはいらへんな」
 「なに言い出すんだよ、急に。やっぱり今日のドラ江さんおかしいよ」
 「のび太。ワシは真剣や。だからおまえも真剣に話を聞いてくれ。ワシは今日、この家を出ていこうと思う」
 「いやだな、何を…またいつもの冗談なんだろ。今日のは少しもおもしろくないよ。ドラ…そんな」
 「ごめんな」
 「なんでだよ、そうか、ドリキャスが気にくわなかったんだ。やめるよ、もうやらない。ドラ江さんがそうしろっていうならもう二度とやらないよ。五時間も並んで手に入れたけど、ドラ江さんが捨てろって言うならそうする。だから」
 「違うんや。ドリキャスはきっかけにすぎへん。ドリキャスの、ゲームとは思えんほどの美しい画面を見ていたらワシの中にあった、ずっと長いこと知っていて無視し続けてきた固いしこりが、急にはっきりと意識されだしたんや」
 「ドラ江さん、やめてよ。そんなふうに話すのはやめてよ。まるで、まるでこれでぼくたちは終わりって言ってるみたいじゃないか」
 「のび太。今日までワシはいろいろおまえに決めうってきたけどな、あれ、全部嘘や」
 「そんなこと言わないでよ! ぼくにとって一瞬前まで何のゆらぎもないほど確かな場所だった現実が、みるみる拡散していくよ。そんなこと言うなんてひどいよ。ぼくはこれからこんな不安な気持ちでどうやって生きていったらいいっていうんだよ!」
 「のび太、何かを切り捨てて得る安定というのは、それは嘘や。現実をこうと見定めてしまって心に安定をもたらすのは簡単なことや」
 「ひどいよ、そんなふうに言ったらぼくが一番困るのを知っていて、ぼくが一番どうしようもなくなってしまうのを知っていて。ひどいよ。ドラ江さんは、ほんとうは、ぼくのことなんか全然愛していなかったんだ!」
 「違う、違うんや、のび太。ワシは今ほんとうの愛情で、初めての心からの愛情でおまえに語りかけてる。ええか、のび太、聖書にこういう一節がある。『主よ、あなたはかれらを愛するあまりもっともかれらを愛さない者のようにふるまってしまった』。わかるやろうか。キリストは愛という行為が人間の生得的な自由を損なってしまうものであることを知っていたんや。かれの力があれば巨大なカリスマとなって人々を率いていくことは簡単やったはずや。でもかれはそれをせんかった。なぜかわかるか。かれは本当に人々を愛していたから、そうすることでかれらの安定とひきかえに、かれらの真に貴重な自由を奪ってしまいたくなかったんや。だからかれの愛のかたちは言葉少なにただ微笑むことやったんや。聖書というのは本当におそろしい書物やと思う。ここには人間の真実のすべてがある…ワシはおまえのことを愛してやっているつもりでいつも逆へ逆へと動いとったんかもしれんな」
 「わからないよ、ドラ江さん。ドラ江さんの言うことがわからないよ…わかってなんかやるもんか!」
 「今はわかってくれんでもええ。いつかおまえにも今日の出来事が感情で理解できるようになる日がくるやろう。最後に、ワシにひとつだけ決めうたせてくれ。これを言うのはワシがまだおまえを本当に愛していない証拠なのかもしれん。でもワシはあえて言おうと思う…おまえが笑い、泣き、腹を立て、劣っていると感じ、優れていると思いこみ、そして誰かを殺したいほど憎むその瞬間でさえも、のび太、おまえの感じる感情は正しいのやで。この世界に生まれ落ちたというその事実だけで、おまえの存在は正しいのやで」
 「やだ…ドラ江さん、待って…あ。ドラ江さん、ドラ江さん、ドラ江さん…うわあぁぁぁぁぁ」
 「さようなら、のび太」


 ドラ江さんの丸い球形のひっかかりのついた赤い尻尾がぼくのすぐ目の前をふわりと通り過ぎていった。ぼくはそれをつかまえてドラ江さんを引き留めることも、ずっとぼくのものにしておくこともできたんだ。でもぼくはそれをしなかった。なぜって、ぼくはそのときになってはじめて、ドラ江さんがどんなにぼくのそばで寂しかったのか、そして、ぼくがどんなにドラ江さんを愛していたかに気がついてしまったから。

つづく

D.J. FOOD(2)

 「 Jam, Jam! MX7! 今週もまたD.J. FOODの”KAWL 4 U”の時間がやってきたぜ! それではいつものように始めよう、 Uhhhhhhhhhhhh, Check it out!

 まァ、今ではロータリークラブという単語を取り扱うような際にも『おお、いやらしい! この童女趣味者め! オマエは欲求不満か! オマエは潜在的犯罪者か!』などと叫びパーティの席でうろたえとりみだすことも隠微な幻視を抱くこともなくなり、『ふぅん、それはちょっとイカした子猫ちゃんだね。はぐれメタルほどではないにしてもね』とクールに応対できるほど充分に成熟してしまった枯れた地方局のいちD.J. という俺の実存なんだけど、血気盛んだった頃にはしばしば名古屋方面へむけて片手で新幹線を投げ飛ばしたものさ! いやァ、あの頃は若かったからね、婦女を誘い込むために子犬だろうが老婆だろうがいい人であるところの俺を演出するための小道具として暴走する新幹線の前にしばしば配置したものだったね! そしてしばしばその子犬を助けることで意図的に競技失格になったものさ! 老婆は見捨てたけどね! 加うるに当時の俺の左足はしばしば着脱式だったよ! おっと、いけない! これ以上話したらみんなに俺の正体がいったい誰なのかバレちゃうよ! ところでロータリークラブっていったいなんだろうね! さぁて、いつもの犬のようなおしゃべりはこれくらいにして、まず最初のお便りはセミパラチンスクにお住まいのアレクセイ・グリゴリーウィチくんからだ! 『ごほ、ごほ。D.J. FOODさん、こんばんは。いつも楽しく聞いています。最近なぜかいやなせきが止まらないんです。母はそんなぼくを心配していろいろ看病してくれるんです。先日も精がつくようにって、いびつな形をしたふた抱えもあるびっくりするような大きな野菜をたくさん市場から買ってきて、野菜シチューをつくってくれました。母のためにも早く元気になりたいです。最後に、はがきが汚れてしまって読みにくくなっていることをお許し下さい。さっきちょっと血を吐いたんです。ほんのちょっとだけ。それでは』YoYoYoYoYoYoYoYo, Yo Men! 死んで・・・しまうの? 次のお便りは長崎にお住まいの虹のしずくちゃんからだ! 『最近かすかにうぶげの生えはじめた、おへその下あたりが恋にも似た切ないうずきをうったえるようになった14歳の私という実存なんですが』YoYoYoYoYoYoYoYo, Yo Men! 合格、ごうか~く! 最後の一枚は大阪府在住の小鳥くんからだ! 『こんばんは、D.J. FOODさん。何度も迷ったんですけど、重大な告白をするためにペンを取りました。ぼくはじつはオナニーをする際しばしばおいなりさんを掃除機に吸引させながらブッかくんですが』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! くたばってしまえ!

 おっと、もうこんな時間だ! みんなからのお便り待ってるぜ! それじゃ、来週のこの時間まで、C U Next Week!」 

風の歌を聴け

 「やぁ。」
 「ひさしぶり。半年ぶりくらいかな。」
 「ちょっと最近仕事が忙しくてね。」
 「今日はもうおしまいなのかい。」
 「いや、ちょっと流行りの風邪にやられてね。会社は休みにして今まで家で寝てたんだ。」
 「それはそれは。まだ寝ていたほうがいいんじゃないの。」
 「いや、もう大丈夫。」
 「そう。何か飲むかい。」
 「今日はアルコールはやめておくよ。気分じゃないんだ。」
 「そうかい。」
 「…。」
 「…。」
 「今日一日家で寝ていてさ、あの頃のことを久しぶりに思い出したんだ。」
 「うん。」
 「あの頃はいつも焦燥感とそれに倍するくらいの無力感があってさ、これは社会が悪いとか叫んでプラカードふりまわしてさ、いろんな思想書からパクったような内容のきったねえ手書きのビラ配ってさ、そんな行為に何か意味があると信じててさ、でも違ったんだな。」
 「うん。」
 「俺がそのころ世界の殻だと、これを破れば俺は解放されると思い続けていたものは、結局自分自身の殻に過ぎなかったんだ。…それを自覚したとき、俺はただアニメを見るしかできない男になっていたよ。」
 「うん。」
 「天井のしみを数えながら、今日一日そんなことを思い出していたんだ。」
 「…。」
 「…。」
 「最近は、玄関におくような全身が写る姿見があるだろ、あれを目の前において、インターネットで落としてきたきっついきっついアニメ絵を見ながらオナニーするのが日課なんだ。」
 「うん。」
 「もちろん、画像もちゃんと姿見に映るような角度に配置しなきゃダメだぜ。これが唯一のコツなんだ…最初はちょっと照れたような感じなんだけど、しまいには泣き笑いのような表情を浮かべた自分の口から、いったい誰に向けられたものか、『ちくしょう、ちくしょう』って呻きが漏れてるのに気がつくんだ。その誰からも非難される、どんな高い哲学性もないドブの底のような惨めさが、何の生産性もなく日々しょうことなしに消費される現実の対象を持たないスペルマが、この時代の、”今”の本質であるような気がするんだよ。そうは思わないかい、ジェイ。」
 「さぁ、あたしにはむずかしいことはわからないけどね。やっぱりビール、飲むかい。」
 「おたくなんて・みんな・糞くらえさ。」
 「そうかもしれないね。」
 「ダニさ。奴らになんて何もできやしない。おたく面をしている奴を見るとね、虫酸が走る。…ジェイ、クレヨン王国はもう消せよ。終わったんだ。」
 「すまない。」

少女地獄

 「こんにちは」
 「ああっ。そ、そんな。ぼくの、ぼくの幻想の、ロリィタァァァァ!」
 「あなたは小鳥くんがバイオを購入するとき同種類のデブと一緒に『いまさらバイオって感じじゃないしねえ!』とことさらな大声で叫んであてつけてみせたわよね。あのときの小鳥くんの愁いをふくんだ悲しげな表情は、今でも思いだすたびにあたしの胸を痛ませるの。大好きな小鳥くんの悲しみをすすぐことができるのなら、この世にただ種を維持するためだけに無意味に存在する、キルケゴールの言うところの『自然の大量生産物』たち何人の生とひきかえにしてもいいと、あたしは心から思うわ」
 「そうか、そうか、人間の肌というのは本来こんないい匂いのするものなんだ。それなのにあのくそ女どもときたら、いやな香水の臭いをぷんぷんさせて、俺たちをどうしようもなく不能にさせて…くそっ、くそっ!」
 「というわけで、お楽しみ中のところ失礼ですけど、これからあなたを殺しちゃいます。えへ。ごめんね」
 「ぶすり」
 「ぎゃあっ」
 「きゃはっ。目の細かい砂を少し余裕ができるくらいにゆるく詰めた水袋を差し貫くときのような感触。長年刃物と親しんできたあたしだからわかるの。肝臓ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも見返られることなく、一人ブタのように死んじゃえ~」
 「ごぼ。くそ、ちくしょう、俺だって、こんなふうには、ありたくなかったんだ。できることなら、もっと、高い何かに、ごぼ。なんで、俺は、いつも、いつも」
 「ぶすり」
 「ぎゃあっ」
 「きゃはっ。『キィン』という音とともに手首に鈍くひびく硬質の手触り。長年刃物と親しんできたあたしだからわかるの。金玉ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも愛されることのなかった何の生産性もないこれまでの人生を、死ぬ瞬間に初めて客観的に後悔しながら一人ブタのように死んじゃえ~」
 「待って、おいていかないで、ぼ、ぼくの、ロ、ロリィタ…」
 「おもしろぉい。立ち上がろうとして何度も血糊に足をすべらせてひっくり返ってるわ。片玉を失ってバランスがとれないのね。まるで出来損ないのおきあがりこぼしみたい。見て見てぇ。ブタ踊りブタ踊りぃ。ぶっざまぁ」
 「ごぼ…やだ…こんな…おか…あ…さん…」


 「こら。探したんだぞ。今までどこ行ってたんだ」
 「あっ、パパ。あのね、小鳥くんをいじめる悪いおとなのひとを殺していたの。今日は六人も刺殺しちゃった」
 「そうか。さぞ猊下もお喜びになるだろう。いいことをしたな、真奈美」
 「えへへ」
 「今日の夕食はハンバーグだってママが言ってたぞ」
 「やったぁ。あたし、ハンバーグだぁい好き!」

ドラ江さん

最終話 『家 族』

 「見るな! 路地裏でポリバケツの残飯に鼻をつっこむ、腐汁にまみれたみじめなワシを見るな!」
 「探したよ、本当に…ドラ江さん。もういいんだ。帰ろう」
 「のび太、ワシはクズや。お前にいろいろなことを無責任に決めうっておきながら、その実自分の話している言葉に対する実感は何も無かったんや。もしあの頃のワシがお前の目に超然とした存在として映っていたとするなら、それは単にワシがいかなる種類の現実とも連絡を持っていなかった、ただそれだけのことなんや」
 「全部わかってるよ。なぜか今のぼくにはすべてわかるんだ。もうぼくにはそんなふうにおびえて話す必要は無いんだよ。だからね、帰ろう。ぼくたちの家に」
 「…誰かが言うていた。『誰とも触れず、いかなる現実をも知らず、ひとり清く孤高であることは簡単です』。ワシは実際のところ何も知っていなかった。こんなみじめさも、生きるということのみっともなさも。他の誰でもないように思考できる自分を誇らしいとさえ思っていた。おまえたちの生活にハエのようにたかっていたくせに、その実ワシはお前たちを見下していたんや」
 「…ドラ江さん」
 「ああ、そうや、しづかは、しづかはどないしとる? ワシはあの娘にも謝らんといかん。会うことがあったら伝えて欲しい。ワシの今の言葉を伝えて欲しい」
 「彼女は、死んだよ」
 「死んだ…?」
 「君がいなくなってすぐのことさ。買い物の出先でダンプにはねられたんだ」
 「死んだ…」
 「霊安室にひっそりと横たわる彼女のなきがらは、彼女らしいつましさで、まるでただ眠っているかのように安らかだったよ」
 「それは、ワシの、せいや」
 「君は悪くないよ、ドラ江さん。ぼくは彼女が君を失って苦しんでいるのを見ずに、ただ自分の殻にひきこもっていたんだ。彼女のことをねたましいとさえ思っていた。ぼくにはすぐそばにいた彼女に手をさしのべることもできたのに。これはぼくの孤立と、つまらないプライドに与えられた相応の罰なんだよ」
 「のび太、笑ってくれ。人を傷つけ、人を死なせまでするみじめな存在やけど、こんな人生の底の底を這っている存在やけど、それでもやっぱりワシは生きたいんや」
 「誰も君を笑わない。誰も君を責めないよ、ドラ江さん。君はただ君の生に忠実だっただけなんだ。ぼくはいま君を助ける力を持っていることを誇りに思う。つまらない自己擁護のそれではなく、他人へと広がっていく豊かな愛を高く持てることを嬉しく思う。そのためにぼくの十年があったんだ。君を迎える強さを得るために。行こう、ドラ江さん。誰も君を拒絶したりしないよ。ぼくはやっとあのとき、僕のもとから離れていくとき君が言ったことがわかる。たとえ君が何も決めうってくれなくても、たとえ君が何もぼくを笑わせるようなことを言ってくれなくても、ぼくは君のことを愛している。君がどんな最悪の、無意味な音を発するだけの肉の塊に過ぎないとしても、ぼくは君のことを愛するだろう」
 「のび太…」
 「依存でも庇護でもなく、ぼくは君と同じように歩きたい。ぼくには君が必要なんだ、ドラ江さん」

 「さぁ、見えたよ」
 「のび太」
 「なんだい、ドラ江さん」
 「家の灯りというのは、こんなにまぶしいものやったろうか」
 「ああ、ドラ江さんは」
 「(眠るような安らかな表情で)暖かいなぁ、ここは」
 「ほんとうに何も知らなかったんだね…」

~ Sleep in heavenly peace ~

怒羅美さん

 「怒羅美さ~ん、助けてよ~」
 「なんじゃい、クソガキ。ワシは今から集会で忙しいんじゃ」
 「助けてよ、怒羅美さん。ぼくはこの世でとても重要な役割を担っている唯一無二の取り替えのきかない存在なのに、ぼくを軽んじるやつらがいるんだ。やっつけてよ、怒羅美さん。圧倒的な暴力でやつらの浅薄極まる論調を叩きつぶしてよ!」
 「あン、またかいな。ええわ。集会のまえの肩慣らしや。得物は何がいい、チェーンがええか、鉄パイプがええか、鎖がまがええか、それとも…ヴァギナか?」
 「鎖がまでずたずたにしてやってよ、怒羅美さん!」
 「ああ? 自分いまなんて言うた?」
 「あ、嘘。チェーンのほうがいいよね」
 「ああ? 自分いまなんて言うた?」
 「ご、ごめん。あの。…鉄パイプ?」
 「ええ加減にせんとおまえから先に喰うてまうぞコラ」
 「ヴァ、ヴァギナで」
 「よっしゃ、ワシが一番得意なエモノや。ひゃっほう!」
 「怒羅美さんが永井豪の偏差値の低い側の一連の作品群を連想させる破廉恥な大開脚でネジで閉める式の薄い窓を突き破って飛び出していったぞ! 破られる窓の象徴する現象については小学生のぼくの実存の持つ知識の範疇外にあるよ!」

 「あれを見て下さい、ジャイやんさん」
 「どうしたんですか、すね夫さん…ああっ、逆立ちの状態で性器をあらわにした痴女が軽快なステップで近づいてきます」
 「おまえらやな。個人的な恨みは無いが、渡世の仁義というやつや。その命もらいうけるで」
 「ち、ちくしょう!」
 「あまりの非日常的な恐怖に追いつめられて逆上した基本的に人間としての器の小さいすね夫さんが木刀で殴りかかりました」
 「甘いわ」
 「ばきゃ」
 「ああっ、様々の樹脂を染み込ませて鋼鉄をひしゃげさせるまでに鍛え上げた、フロイト的に解釈するならば立派なチンポに対するぼくのコンプレックスの表出であるところの木刀が、根本からヘシ折られました。というよりむしろこれは噛みちぎられたのですか、ヴァギナに」
 「グループ同士の抗争にまきこまれて死んだワシの旦那のチンポはもっと堅かったで」
 「それは同時に去勢を象徴してもいます、すね夫さん」
 「おまえが頭目やな」
 「呆然とするぼくこと骨河すね夫という小学生の実存を尻目に、両腕をねじりあげるようにして驚くほど高く跳躍した性器を露出した痴女が、ジャイやんを近代格闘における不落のマウントポジションに組み敷きました」
 「おお、なんということですか。彼女のそれはまるでくみ取り式便所にくみ取りにくる車に付属しているひだのたくさんついたホースのように蠕動して私の男性という性をみるみる吸い上げてゆきます。それは例えるなら全盛期のカール・ルイスと同程度の速度です」
 「差別用語を使うことに微妙に敏感な言いぶりのジャイやんがみるみる精気を吸い取られしぼしぼになっていきます」
 「どうや、天国と地獄が紙一重の位置にあるのが見えるか」
 「(腕時計を見て)私こと剛田たけしは本日12時23分34秒ただいまをもちまして、腎虚で逝去いたします。みなさま、ご静聴ありがとうございました」

委員長金子由香

 「どうしたんだい、委員長。急に屋上なんかに呼び出して」
 「ねえ、坂上君…青空は好き?」
 「うん、好きだな。ほら、僕って重度の二次コンだろ。何の自己再生産性もない、人類という種の本義に反した悪魔的な罪の上にいる僕だけど、このぬけるような青空を見上げていると、僕の持っているような何も生み出さない種類の糞ほどにも役に立たないちょっとした繊細さを傷つけないで尊重してくれる、薄布をわずかにまとっただけの男にとってたいへん都合のよい様子の婦女子の連隊がある日突然空から舞い降りて来て、戸籍だとか国民年金だとかそういった現実の方法を無視したやり方で僕の家に押し掛け女房的に住み着き――当然それを成立させない実際的な理由のうちの最も蓋然性の高い両親という問題はすでに死に別れているとか、海外への長期出張だとかで向こうから解決してくれているのさ。彼女らを養っていくための金は当然両親ないし両親の知り合いの富豪が毎月口座に何不自由ないほど振り込んでくれるんだ。これは彼女たちとより多くの時間を共有せねばならないという劇的必然性からもこうでなくちゃならないんだ。両親の不在については何か象徴的なものを感じないではないがね――こちらはむしろちょっと迷惑そうな様子で、現実の資本主義的社会では悪徳とされるような優柔不断さで彼女らをいつまでもずるずると追い出せずいるうち、彼女らの全員が全員それぞれのキャラクターに適したやり方で――熟女なら熟女の、不良なら不良の、天然なら天然の、ヒロイン系ならヒロイン系の、さ。まァ、最終的に選ぶのはロリータキャラなんだがね――今まで僕が知らなかったような種類の愛を注いでくれて――ここにも両親の不在が大きなファクターとなっているんだな。『※※君は、本当の家族っていうのがどういうものなのか、知らなかったんだね』が殺し文句になるわけだよ、最終的なね――こちらからはHPを作る程度の何も失わない消極的なアクションしか無いのにもうモテてモテて困っちゃう愛欲の宴に陥れてくれないだろうかと夢想するんだ。もしこの夢を贖うために僕が毎夜消費し続けてきたスペルマがあったのだとしたら、そのスペルマを放出する作業に使うカロリーを得るための貴重な動植物の無駄な死が――これ以上に犬死という言葉がぴったりくる死にっぷりは人類史上ちょっと他に考えられないね――あったのだとしたら、僕は少し救われた気持ちになるだろうと思うんだ」
 「坂上君…」
 「ははっ、こんなことを話したのは委員長が初めてだな。でも学校という閉鎖された現実ともっとも遊離した虚構空間において、それは充分にありそうなことだと僕は思うんだ。あっ。うわっ。委員長、何をするんだ。やめろ、早まるな。やめろ、やめろぉぉぉぉぉ…ぐちゃ」


 「ざわざわ」
 「なんだなんだ」
 「上から人が落ちてきたのよ」
 「投身自殺かしら」
 「あっ。あれは商業的に成功しそうにない種類の詩の冊子を同人誌即売会で売る、特にこれといった外見的・性格的特徴を持たないんだが、なぜかクラス内で敬遠され孤立する人間の2年B組坂上裕次君ではないか」
 「そうよそうよ。同級生の坂上裕次君だわ。私がある日昼休みになにげなく発した『かれってでも夜中にひとり猫とか殺してそうよねえ』という一言がクラス全体に水を打ったような静寂を引き起こしてしまい、たいそう気まずい思いをした坂上裕次君よ」
 「ざわざわ」


 「坂上君、あなたが悪いのよ。あなたが悪いの…」

媾合陛下

  こう-ごう【媾合】性交。交接。交合。(広辞苑第四版)

 私の名前は媾合陛下。ホワイトハウスでの惨劇から一ヶ月、A国の威信をかけた大追跡をすんでのところでかわす死と隣り合わせの毎日。今日も今日とて名前も知らない土地で放置された丸太小屋の干し草に身を横たえるの。何か危険なものを一枚下に孕んだおそろしく静かな大気が、今夜が無事には過ぎ去らないだろうことを私に告げているわ。
 「媾合陛下、たいへんです。小屋の周囲を完全に取り囲まれています」
 「窓よりの眺望を媾合陛下に慎んで奏上し申し上げる。完全装備のヤンキーどもが数百人、ここからうかがえるだけで戦車が四台、上空には両脇にミサイルを二本づつ抱え込んだヘリが旋回しているで御座るよ」
 「大げさすぎますな」
 「やつらはいずれ私個人の暴力が一国家の軍事力に匹敵するまでに成長するだろうことを見越しているのよ」
 「がしゃん」
 「四方からのライトがこの小屋を攻撃目標として照らし出したで御座る。夜闇に浮かび上がるこの小屋の様子はまるで嵐の海に乗り出すボートのように頼りなくあの鬼畜米英どもの目にうつり、やつらの男根的な優越感を大いに満たしているのだろうと想像するだにはらわたが煮えくり返るで御座るよ」
 「”Surrender within thirty-second. Or we'll begin to attack you.”」
 「媾合陛下にきゃつら鬼畜米英の意味するところをかしこみかしこみ奏上申し上げる。『三十秒以内に投降せよ、さもなくば我々は攻撃を開始する』」
 「媾合陛下、どうしようどうしよう」
 「あわてるんじゃないよ。どのみちやつらにゃハナから私たちを生かして帰す腹づもりなんざないのよ。何事も高度な次元にまでつきつめると単純なところに結論が戻ってくるものよ。動物のナワバリ争いと同じで、二度と歯向かう気を起こさないように叩きのめしてやればいいだけのこと。私のやり方を見てなさい・・・しゃっ」
 「ああっ。たいへんだ。媾合陛下が丸太小屋の壁面を暗喩的に破砕しながら象徴的なきりもみでA国軍の手ぐすねひいて待ちかまえるまっただなかへ飛び出していかれたぞ」
 「彼我兵力差は1対数千。分が悪いぞこりゃ」
 「媾合陛下、媾合陛下ァ!」

 「きゃおらッ」
 「ああっ。媾合陛下の下半身を露出した御足の一閃と同時に数十人のヤンキーどもの首と胴体が永遠に泣き別れたぞ」
 「媾合陛下にかしこみかしこみ奏上し申し上げる。七時の方向よりヘリから放たれたミサイルが地上数センチの位置を砂埃を巻き上げながら急速接近中で御座る。注意されたし。注意されたし」
 「ぐぼ」
 「嗚呼なんたるちやサンタルチヤ南無八幡大菩薩、媾合陛下の下唇が(この表現で賢明な読者諸賢には何のことだかもうわかりますよね?)ぱっくりと開くと飛来するミサイルを根本まで呑み込んだで御座るよ。棒状の物体の挿入を我々健康な成人男性に否が応にも連想させる傍目からもそれとわかるほどに膨れ上がった媾合陛下の下腹部の年齢制限漫画的蠢きは、我々に日本という国に生まれて本当に良かったとあらためてしみじみと実感させる高度に文化的風情で御座るよ」
 「君は日本人じゃないけどね。ああっ。その無上にエロティカな様相にA国軍兵のほとんどが股間に両手を突っ込んだ内股状態で戦闘不能に陥ったぞ。媾合陛下、戦後日本の歩んできた道は間違っていなかったのですね。加えて媾合陛下が局部の筋肉の律動だけで放送禁止的液体でぬめるミサイルを打ち返したぞ」
 「直撃を喰らったヘリが黒煙をあげながら深夜の森に墜落していくで御座る」
 「”My God! She is one of the worst VAGINA-MONSTERs in the history of human!!”」
 「媾合陛下にきゃつら鬼畜米英の意味するところをかしこみかしこみ奏上し申し上げる。『ああっ!女神さまっ。彼女は人類史上最悪のヴァギナモンスターの一人だ。俺はエイリアン2で彼女がシガニー・ウィーバーと戦っているのを見たことがあるよ』」
 「きゅらきゅらきゅらきゅら」
 「ついに戦車部隊が動き出したで御座るよ」
 「地上戦最強兵器の登場に我々の媾合陛下になす術はいったいあるのか」
 「しゃっ」
 「嗚呼なんたるちやサンタルチヤ南無八幡大菩薩、媾合陛下が乙女の恥じらいを具象する部分で(この表現で賢明な読者諸賢には何のことだかもうわかりますよね?)戦車の砲塔を根本までずっぽりと呑み込んだで御座るよ。そして媾合陛下自身からしたたる液体があたかもそれが濃硫酸であるかの如く、いかなる苛烈な銃撃をもはねかえすブ厚装甲をみるみる溶解させていくで御座るよ」
 「”Fire, Fire!!”」
 「媾合陛下にきゃつら鬼畜米英の意味するところをかしこみかしこみ奏上し申し上げる。『クビだ、クビだ』」
 「ああっ。媾合陛下の皮膚一枚と女性の有する特殊臓器一つ隔てた下で現在発生しているだろう無数の爆発を知らない部外者の目から見たならばそれは年齢制限ゲームにおける地球外生物の触手に今まさになぶられているようでもあり、これまた戦後の日本文化を世界に向けて高く止揚する光景であります。媾合陛下、A国軍は壊走を始めましたぞ」
 「あの光は何で御座るか」

 「N州上空にキノコ雲の発生を確認」
 「これで君の国もようやくやっかいばらいができたというわけだ」
 「そしてあなたは次期大統領の座を手に入れる。すべてシナリオ通りというわけですな」
 「ふふふ。それでは我々の新しい関係に乾杯しよう」
 「両国の輝かしい未来に」
 「乾杯」

小鳥猊下の日常

 「ぴたクールのCMでロリータがあげる『気持ちいい…』というあられもない嬌声を録音編集して実戦投入するそこのおまえ、一歩前へ出ろ。殴ってあげるから」
 「あっ。小鳥猊下が成人男性なら誰もが抱く当たり前の義憤にかられた様子で薄い両肩を無理に怒らせながらケンシロウのように両の拳をぼきぼき鳴らしつつ御出座なされたぞ」
 「なんてあからさまな童女趣味なのかしら。でも愛してる!」
 「スーパードールリカちゃんを何のオリジナリティもない企画アニメと鼻で笑うそこのおまえ、一歩前へ出ろ。殴ってあげるから」


 「で、小鳥猊下なんですけれども、今日は普通にありふれたかれの日常を彫刻してみたいと思います。なぜって、あのようにスリリングでアクロバテックでバイオレンスでエロスな日記ばかりを読まれると、たいそう神々しくもめでたい御姿をネットワーク上に卓越した文章にてメタファライズなされる小鳥猊下の実存とは、病室毎に鉄柵のついた入るは簡単出るは棺桶看護体制は最悪だけれども看護人の給料はべらぼうにいい類の特殊な病院に収容されている人間なのではないかと洞察力に欠ける知的にチャレンジされた一部の臣民たちに邪推されてしまうからで、それは私にとってとても心外だしとてもやりきれないからです。そんなことは全然ないです。当サイトが、両親ないし養育者との関係から発生した初源の不全による不安の神経発作を何か特殊な個性ででもあるかのように毎日の日記に記述し、あまつさえ同情を求める皮膚病の赤犬の図々しさで自らの病気に周囲を巻きこもうとし、日本人口の総体に対してほんのわずかの人間を巻きこむことに成功するという次元の低い金にならない達成で自分を得て、一時的な安心感に口の端からだらしなくよだれを垂らすようなよくあるパラノ・サイトとは全く次元を異にした成熟した大人のおっぴろげサイトであることはここにいらっしゃるみなさまが一番よくわかっておられるはずです。それでは当国の執性官をつとめる私めが、慎んで今日の猊下の御様子を公開させていただきます。
 「太陽も空の半ばを過ぎようというころ、小鳥猊下はようやく身体が二十センチも沈み込むような天蓋つきのベッドから気怠く御身体をお起こしになります。猊下の御尊顔は真に高貴な者がしばしばそうであるように紫色の靄に畏れおおく覆われており、下々の者にはその表情をうかがい知ることはできません。ビロオドのカーテン越しに射す柔らかな午後の日射しに目を細めながら、意識の覚醒するまでのあいだしばし猊下は御自らのかたちの良いなまめかしいピンク色の乳首をもてあそばれます。小鳥猊下は空調などという野暮で不健康なものは使いません。猊下に仕える黒人女が、今日は少々汗ばむ気温ですので、身の丈ほどもある大きな葉でもってゆっくりと緑の爽やかな匂いのする涼風を送ります。その一方で別の黒人女がオリイブ油を手づから小鳥猊下の抜けるような白い肌に塗りつけます。それは芸術に理解のある者が見たならば『アイボリーとエボニー』と名付けたくなるような見事な一枚の絵画を思わせる有様です。小鳥猊下のきめ細かい肌の官能的な手触りはすべての婦女子をたちまち降参させてしまうほどです。今日も何を血迷ったのか、油を塗る役目の黒人女が頬を紅潮させながら舌を前につきだしつつ猊下のブリーフを脱がしにかかりました。その際にちょっと見えた先端もやはり真に高貴な者がしばしばそうであるように紫色の靄に畏れおおく覆われており、下々の者にはその朝立ちっぷりをうかがい知ることはできません。機嫌のよい朝はさせておく場合もあるのですが、今日の猊下はどうやら虫のいどころが悪かったようです。そのローマ闘士もかくやと思わせるような見事に筋肉の発達した右足を振り上げると、破廉恥女のみぞおちから横隔膜、背骨へと文字通り突き抜けるような足先蹴りをお見舞いしました。口から動脈が破れたことを証明するような真っ赤な鮮血を吹き出しながら破廉恥女は床を転げ回りましたが、その頃には小鳥猊下の高貴な頭脳には彼女のことは微塵も残されていませんでした。小鳥猊下の憂いにけぶる瞳は――当然猊下の御尊顔は真に高貴な者がしばしばそうであるように紫色の靄に畏れおおく覆われており、下々の者にはその表情をうかがい知ることはできませんのでこの表現は修辞的想像に過ぎませんが、それはきっとこの世界に存在する最高の芸術家の夢想する究極の美をもしのぐ麗しさでございましょう――すでに今夜の乙女にする性の妙技の夢想へと向けられていたのです。我が宗教国家において初夜権は猊下の上にあり、そしてそれが猊下の行う唯一の国務なのです。

今は亡き王国の

  「たとえばおまえが大学生になって合コンのようなコンパの席に呼ばれたとするだろ(この時点ですでに少し間違っている)。そっちに男が四人ならんで、こっちに女が四人ならぶわけよ。最初は女のほうは淫乱だと思われたくないからそっぽむいて煙草ふかしながらつまらなそうにしているわけだ。ここがまずポイントなわけよ。煙草を吸うような性行のある女ってのは幼い頃に、たとえば親がぞんざいな温めかたをした熱いミルクで口腔を火傷したりして、つまり口愛期に問題があって、そこで受けたトラウマを大人になった今煙草なんかの明らかに害になる刺激物を粘膜から摂取することによって無意識のうちに繰り返し表現してみせているわけよ。わかるだろ? あそこも要するに言ってしまえば粘膜だよな? わかんねえ? ああ、もうヴァギナだよヴァギナ。まァ、ここまでうがった読み方をしなくてもだな、細長い棒を積極的に唇にくわえこんでいるというのは、要するにフロイト的に見るにチンポじゃん。チンポの暗喩に決まってんじゃん。つまり吸ってる煙草の形状と自分の形状を照らし合わせてみて――実際にその場で見るんじゃねえぞ――最も近似値をとる女をねらえばいいわけよ。どうだ。最初に向かい合った瞬間にプロはここまでデータをそろえることができるわけよ。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』、これを知ってさえいれば最悪負けはあり得ねえよ。次にだな、インパクトが大切よ。最初に見たものを親と思いこむヒヨコのようにだな、最初のつかみさえドカンと炸裂させておけばあとは少々つまらなくても惰性でしゃべっても最初のイメージがあるから面白く錯覚しちまうもんなのよ。それがむずかしいんだって? 安心しろ、俺がここに定型とも言うべき長年の経験にしっかりと裏付けられたマニュアルを持っている。『ヴァギナとは貴女にとっていったい何なのですか?』これだ。どうだい、マグナム級のインパクトだろう。だが待て、これだけではダメだ。これだけではインパクトが強すぎて逆に相手をおびえさせてしまうおそれがある。『男である僕にはよくわからないんですが(病弱そうに胸の悪い咳をしながら弱々しく)』これを緩衝材として枕詞に置け。『男である僕にはよくわからないんですが、ヴァギナとは貴女にとっていったい何なのですか?』完璧だろう。これでもう相手の四人はおまえの方に釘付けだ。あとは五人同時プレイに思いを馳せろ。あ、お兄さん、注文追加! コカ・コーラをネギ入りで! どうだい、今の間合いで笑いをとるんだぜ? あ、お姉さん、注文追加! コカ・コーラをコカ入りで! ププ~ッ、コカ・コーラって言うくらいだからあらかじめ入ってるに決まってるじゃん! コカ・インじゃん! どうだい、今の間合いで笑いをとるんだぜ? 笑いで一番肝心なのは間合いだからな、間合い」

魁!男闘呼塾

 「こ、これは~っ!!」
 「なんじゃ~っ!?」
 「男闘呼塾至宝大塾旗”男根旗”。男闘呼塾の魂です。別名あがらずの男根旗とも言います。これをあげるにはただ体力だけでなく、勃起力が大きくものをいいます」
 「う、噂に聞いたことがあります。これに挑戦し失敗して海綿体を裂傷、一生L字型のブツをぶらさげて歩かなければならない身体になってしまった奴もいるそうです」
 「さあ誰ですか。旗手長となってこの旗を大空に隆々と勃起させ、現在富士山頂でうれしはずかし悶え戦う桃尻娘たちの目を見事セクシャルハラスメントしてみせるのは」
 「俺があげてみせる、その男根旗」
 「ひ、秀マラ~っ!!」
 「おまえには無理です、日本人男性の標準をはるかに下回る9cmのチンポしか持たないおまえには」
 「そうですそうです。その数値が勃起時のものであるという事実にも驚かされます。おまけに太さの点においてもはるかに日本人男性の平均をはるかに下回っています。それは形容するなら糸楊枝です」
 「そうですそうです。加えてそのブツで食後に塾生全員の歯の隙間をせせってやるような、心根の優しいおまえには到底無理です。せせっている最中に何を勘違いしたのか廊下を通りかかる桃尻娘たちの嬌声を聞いて田沢塾生の口腔内に発射してしまったようなそそっかしいおまえには到底無理です」
 「お願いだ、みんな、俺にやらせてくれ。先端に三角錐のひっかかりのついた巨大な欲棒を思わせるこの塾旗は、俺の立派なチンポに対するコンプレックスを象徴するような有様なんだ。ここでこの男根旗に背を向けたら、俺は一生自分のチンポに対して劣等感を抱き続けなければならないだろう。わがままなのはわかっている、俺に俺の過去のチンポを精算させてくれ! 俺を男にしてくれ!」
 「秀マラ…」
 「わかりました、秀マラ。たとえおまえが途中で旗を取り落としたとしても、俺たちは責めはしません。思う存分にこの張り形を思わせる疑似チンポで現在富士山頂にてうれしはずかし悶え戦っているはずの桃尻娘たちを陵辱してやりなさい。いや、応援してやりなさい」
 「みんな…すまねえ。ありがとう」

 「ぬああ~っ!! ぬぐおお~っ!! おおお~っ!!」
 「ああ、ダメです、かけ声ばかりでピクリとも勃起しません。いや、持ち上がりません」
 「いくらなんでも無理です。あの秀マラのへっさいチンポであがらずの男根旗をあげようなんて」
 「チンポの大きさは問題ではありません。この男根旗をあげることができるのは唯一乙女を懸想する男の純情・・・勃起力です」
 「ダメだ…やっぱり俺のチンポは標準以下なんだ…くそ、目がかすむ…幻聴が聞こえてきやがった…」
 (ひでまらくんって、ちんぽがないのね。だったらわたしとおなじね)
 (先生、秀マラは女子のチームに入れてください。だって秀マラってチンポ無いから(クラス内男子爆笑))
 (あら、男子。失礼なこと言わないでよ。女子にも男子におけるチンポに相当する器官はあります。秀マラくんはそれよりも更に、ってことよね(クラス内女子爆笑))
 (秀マラのチンポは本当に歯の間の恥垢を、いや、歯垢をせせるのにぴったりじゃのう)
 (どうしたの、秀マラ。早く、早くぅ…え、もう入ってるの? 嘘ぉん)
 「うおあぁぁぁぁ~っ!!」
 「ああっ。秀マラの何か耐え難い過去の現実に対する絶叫と血涙と同時に、あがらずの男根旗が少しずつ勃起しはじめました。 いや、持ち上がりはじめました」
 「秀マラ~っ!!」
 「雲をつらぬき(貫かれる雲がいったい婦女子の身体のどの部位を暗喩しているのかは賢明な読者諸兄にはもうすでにおわかりですよね?)秀マラの男性自身にささえられ高々と掲げられた男根旗はまるで秀マラの自前のチンポでもあるかのような錯覚を 我々に抱かせます。その偉容に、桃尻娘たちのふんどし一丁の破廉恥相撲の嬌声がここまで届くようです」
 「秀マラの男根コンプレックスはここに解消を見ました。くろぐろとそびえる男根旗はまず視覚的に秀マラの求め続けて決して 満たされなかった男根的優越感を満たすでしょう」  「やった、俺は勝ったぞ。俺自身の惨めな、ポンチ絵のような(賢明な読者諸兄はこれがチンポと韻を踏んでいることにすでにお気づきでしょう)過去と訣別したぞ。見ているか、桃尻娘たちよ、世界人口の半分を占めるヴァギナモンスターたちよ、俺が、俺が、俺が秀マラじゃ~っ!!」
 「ぼきり」
 「ああっ。重みに耐えきれなくなった秀マラのチンポが半ばから…!!」
 「秀マラ、秀マラ~っ!!」

ドラ江さん回想録

 「(半眼で瞑想するかのように)我々が創造性というとき、それは何か特殊な、人間の本来に付加された才能のことを言うようやけれども、ワシは違うと思う。それは人間が本当に愛情を与えられて育ったような場合手に入れることのできる完全な生――これは心理学者の抱く実現のあり得ない空想やない。現にワシはそれを知っている――に足りない部分を補うために生み出されたぎくしゃくする、いつ停止するかわからない怖れにおびえなければならない、欠損した人格を世界に仮に生かすための、言うなれば人工臓器に過ぎないということや。この不出来な人工臓器は現実の様々の事象――主に愛情やな――を虚構によって作り出す働きをしている。これは特別何かの文学作品などということを意味しているのではないで。現実生活においてもそれは起こり得るし、こうしている今にも起こっているんや。しかしこれは所詮まがいものに過ぎん。どんなに上手に擬態して現実を模倣してみせたところで、ホンモノにはかなわんのや。人生の初源において豊かな打算のない愛情において育った人間は、豊穣な人生という樹木を自由に上り下りし、そこから両手いっぱいにまるまる太った生命と意味性の果実をもぎとることができるやろう。一方でかりそめの人工臓器に動かされる欠損した人格にはそこに近づくことも難しいし、近づいたところで自分でつくりあげた不出来な梯子でその樹木の一番日の当たらない傷ついた固い実をひとつかふたつもぎとるのがせいぜいや。欠損を抱えた人間が完全な生に到達するための絶望的な死力を尽くした努力も、完全な生を持つ人間には決して届くことが無いんや。なぜって、欠損を抱えた人間にとっての一生をかけてたどりつけるかどうかのゴール地点が、完全な生をあらかじめ持っている人間のスタート地点やからや。…エヴァンゲリオンがすばらしかったのはこの行程を作品上に暗喩してみせたところやし、あわや完全な生を持った人間たちの背中をもとらえるかという走りざまを我々に見せてくれたからや。結局それは果たされんかったけどな。最初から完全な生を持つ人間にはこの作品が語る世界への憎悪は全く理解できないし、むしろ悪魔的であるとして忌避すらするやろう。ワシは今日京都でガキどもをじゃれつかせながら漠然とそんなことを考えていた。だからな、のび太。おまえは神風怪盗ジャンヌの創造性の無さを批判したらアカンのや。確かにこの手の作品を有名なものにする一番の要因であるところの決めセリフが圧倒的に他と較べて弱いということは認める。だがな、それをしてこの作品を無慈悲に断罪したらアカンのや」
 「…わかったよ、ドラ江さん。ぼくが間違っていたよ」
 「ええのや。わかってくれたらええのや」

ドンボルカン

 「こんにちわ、おばさま」
 「あら。誰かと思えば近所のミッション系お嬢様女子中学校に通っている、最近子どもから大人への過渡期の身体に幼艶な魅力を漂わせはじめたお隣の中山久美子ちゃんじゃないの。もう学校は終わったのかしら」
 「ええ、今日は土曜日だから。おばさまこそ口元の大きなホクロと開ききって腐汁を垂らす妖花を思わせる厚ぼったい唇にこってりと真っ赤な口紅を塗りつけた姿が丸刈り男子中学生にたいそう劣情をもよおさせ、実際数人くわえこんでもいるとご近所でもっぱら評判の熟女っぷりがオーラとして視認できるほどむんむんで久美子うらやましいです。あたし、将来はおばさまみたいになるんだ」
 「うふふ、ありがとう」
 「ところでおジイちゃんの(わざわざ”ジイ”と片仮名で表記したことがいったい読者諸賢に何を暗示させるためなのか、当然おわかりですよね?)具合はどうですか」
 「最近はちょっといいみたいだったんだけど、流行り風邪にやられちゃってね」
 「ごほごほ」
 「(縁側から家の中をのぞきこみながら)ほんとだ。おジイちゃん苦しそう。このまま抵抗力の低い老人の身体で回復しないまま衰弱していくのかと思うとおばさまも色々と気が重いですね」
 「色々と、ぃろぃろ、ぇろぇろ、えろえろ、エロエロ! ギャ・ギャ・ギャーーン!」
 「ああっ。風邪のウイルスにやられてせんずりを終えた直後のチンポのようにしぼしぼだったおジイちゃんのかさかさの乾ききった肌が、初潮を迎えたばかりのロリータの無意識に発するエロ擬音に少し張りと瑞々しさを取り戻したわ」
 「あれ、もうこんな時間。今日はパパといっしょにお昼を食べる約束なんです。あんまりうろうろしてると久美子怒られちゃう」
 「うろうろ、ぅろぅろ、ぇろぇろ、えろえろ、エロエロ! ギャ・ギャ・ギャーーン!」
 「ああっ。風邪のウイルスにやられてせんずりを終えた直後のチンポのようにしぼしぼだったおジイちゃんのかさかさの乾ききった肌が、うぶげのようやく生えはじめたばかりのロリータの無意識に発するエロ擬音にまた少し張りと瑞々しさを取り戻したわ」
 「それじゃ、久美子もう帰ろうっと。おジイちゃん、またね」
 「帰ろう、かえろう、えろう、えろ、エロ! ギャ・ギャ・ギャーーン!」
 「ばりり」
 「ああっ。ようやくほころびはじめたつぼみを思わせるロリータの無意識に発するエロ擬音に反応してせんべい布団を突き破り(この突き破られるせんべい布団がいったい婦女のどの部分を暗喩しているのか賢明な読者諸氏にはもうおわかりですよね?)くろぐろと露出し湯気を立てるその先端は、普段そうであるような枯れ木を思わせる弱々しさではなく魔法瓶そこのけの見事な巨根だわ」
 「わしじゃい! わしがドンボルカンじゃい!」
 「ああっ。港区の一老人というくびきから解き放たれ、地上最強が縁側を踏み抜き一歩毎に足腰の弱いものなら即座にその場にくずおれてしまうような地響きを巻き起こしながら動き出したわ。この私でさえ能動的なアクションを起こす余裕もあらばこそ、かれのそれが一方的に私の女性を蹂躙し通り過ぎるのを待つしかない苛烈さだというのに、性交を知らない女子中学生にとってドンボルカンの相手は荷が勝ちすぎる。久美子ちゃん、逃げて、逃げて~ッ!」


 「あっ。おジイちゃん。もうお風邪はいいの?」
 「わしじゃい! わしがドンボルカンじゃい!」
 「ばりり」
 「きゃああ~っ!」


 「あの悲鳴は! 久美子ちゃん! 久美子ちゃぁぁぁぁぁん!」

D.J. FOOD(3)

 「 Jam, Jam! MX7! 今週もまたD.J. FOODの”KAWL 4 U”の時間がやってきたぜ! それではいつものように始めよう、Uhhhhhhhhhhhh, Check it out!

 まァ、今では安孫子素雄がよくゴルフ漫画でやり今もやっているような、ボールが発射される際に高々と鳴り響く『ドピュ』という擬音に電車内でのけぞり、「先に球形のひっかかりのついた棒! 玉! ドピュ! おお、少年誌でなんという犯罪的な! おまえは青少年性犯罪の悪魔的扇動者か!」と叫んで人々の顰蹙を買うこともしばしばの俺の実存だったんだけど、今では充分に枯れた地方局の一D.J.という立場でもって近所の女子小学生にそれの表記されているページを見せながら「でも実際こんな音しないよね」とたずね、彼女らが早く逃れたいものだからしょうがなくうなずくところに「ふぅん。なら桜ちゃんは聞いたことがあるんだね、実際に。今そういう意味のことを言ったよね? ああ?」と畳みかけ合わせた狂信的な目をしつこくそらさずに難詰する、ふつうの成人した職を持たないHPは持っている大人がしばしばやる程度のことをお父様方の日々の晩酌のようにつつましやかにやるだけなんです。そしてあの頃は血気盛んなものでしたから、初登場の頃はただのへたれキャラだったのにストーリーが進むにつれ次第に渋い脇キャラとしての重要性を持ち始め、その自前のサザエさんのような髪型で声が潰れるまで仲間を応援したり、仲間を戦場に送り込むための肉の橋になったり、それらの事実で男色的な意味合いを読者少女層に感じさせて絶大な人気を博したり、そして感動させんがための物語のご都合主義的必然でついうっかり死んでみたり、すぐに復活して読者少女層の支持を失ったり、最後のほうにはやたら影が薄くなってみたり、そんな日々の暮らしでした。AVビデオをこそこそ借りるくらいには姑息でしたし、だからといって性犯罪を犯さない程度には生活に充足していました。そんな青春でした。あの頃の友人は今では総理大臣やってます。わからぬもんですよ。さぁて、いつもの犬のようなおしゃべりはこれくらいにして最初のお便りは…これは書いてないな、住所不明のあしたのジョーウィルくんから! 『ミサイルかっこいいよ、ミサイル! チンポみたいで! ムカついたら全部ブッこわしてくれるしさぁ! ゴジラかっこいいよ、ゴジラ! チンポみたいで! ムカついたら全部ブッこわしてくれるしさぁ! 最近あんた調子のってるよ!』YoYoYoYoYoYoYoYo, Yo Men!  や、やんのかコラァ! 次のお便りは仙台にお住まいの北へちゃんからだ! 『最近外につもる私の性的な純潔さをひそかに暗喩するところのまっしろな雪を見てると思うんです。この白を、たとえば泥やそれに類する汚れのたっぷりとついたゴム長靴で(それぞれがいったい本当は何を意味しているのかは言いませんよ)ぐちゃぐちゃになるまで汚すことができたらどんなに胸がすくだろうって思うんです。FOODさん・・・』YoYoYoYoYoYoYoYo, Yo Men! 斉藤くん、宮城行きの新幹線の切符大至急入手して! 最後の一枚は大阪府在住の小鳥くんからだ! 『こんばんは、D.J. FOODさん。何度も迷ったんですけど、重大な告白をするためにペンを取りました。ぼくはじつはオナニーをする際しばしば尿道に異物を挿入し、両手をつかわずに自力でそれをひり出すことで快楽を得るんですが』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! くたばってしまえ!

 おっと、もうこんな時間だ! みんなからのお便り待ってるぜ! それじゃ、来週のこの時間まで、C U Next Week!」 

少女地獄

 「こんにちは」
 「ああっ。私の、幻想の、ロリィタァァァ!」
 「貴方は小鳥くんのホームページを金も払わず切り取り強盗の図々しさでさんざんっぱらねめまわした後『何なんですか、あのHPは。二度と行きません』という内容のメールをわざわざ送信したわよね。それを知ったときの小鳥くんの、自分の性病を医者に知らされたときのような、悲しげな愁いをふくんだ表情は今でも私の幼い胸を痛ませるの。あのときの小鳥くんの悲しみをすすぐことができるのなら、この世界に存在するその努力は無しにただ愛されたいといやらしく舌を突き出してみせる皮膚病の赤犬のような有象無象ども何人のただ環境破壊に貢献するだけの無駄で無価値な生とひきかえにしてもいいと私はこころから思うの」
 「なんて愛らしい。なんてすばらしい石鹸の匂いのするすべすべした肌なのかしら。そして無垢な少女性を存分に引き立てる上等の洋服。私が望んで望んで望み続けて手に入れられなかったものたちよ。両親は子供時代の私の実存に無上の愛撫ではなく殴打でもって応えたわ。もし私があなたのようだったら、私はどんなに愛されたことだろう。ちくしょう、ちくしょう」
 「というわけで、お楽しみ中のところ失礼ですけど、これからあなたを殺しちゃいます。えへ。ごめんね」
 「ぶすり」
 「ぎゃあっ」
 「きゃはっ。ゲットぉ。水枕に使う分厚いゴム袋を差し貫くときのようなちょっと抵抗のある感触。長年刃物に親しんできた私だからわかるの。心臓ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも見返られることなく、一人太りすぎて自力では動けなくなったトドのように死んじゃえ~」
 「ごぼ。私だって、本当は、こんなふうな、誰からもかえりみられない、醜い、私でありたかったわけじゃ、ないのに。私は、いつも、いつも、次の朝目覚めたら、違う私にと、願いつづけて、惨めな一人の眠りを、眠ってきたのに。ごぼ」
 「ぶすり」
 「ぎゃあっ」
 「きゃはっ。ゲットぉ。想像よりはるかに固い薄膜を突き破る抵抗に続いてぷちぷちとひも状の何かをひきちぎる感触。長年刃物に親しんできた私だからわかるの。眼球ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。巷間にあふれる平等な意味のある生という無数の例証が近代社会を表面上成立させるための幻想に過ぎないことや、容姿などの個体差により生まれながら分けられた人生の明暗の真の不平等さや、自分自身の惨めでこの上なくリアルなスケールを死ぬ瞬間にはじめて実感しながら一人太りすぎて自力では動けなくなったトドのように死んじゃえ~」
 「待って、おいていかないで、私のロリィタ、私が本当はそうあらねばならなかった、そうあるべきだった私のすがた…」
 「おもしろぉい。あふれる血に残された視界をふさがれ、両手を前向きにさしのべる格好で電柱を抱きかかえるように自分から思いきり激突して重力方向にブッ倒れたわ。歯を剥きだしてシンバルをたたきながら前進する猿の人形みたぁい。きゃっきゃっ。もっともっとぉ」
 「ごぼ…やだ…こんな…おとう…さん…」

 「こら。探したんだぞ。今までどこ行ってたんだ」
 「あっ、パパ。あのね、小鳥くんをいじめる悪いおとなのひとを殺していたの。今日は十五人も刺殺しちゃった」
 「そうか。さぞ猊下もお喜びになるだろう。いいことをしたな、江里香」
 「えへへ」
 「今日の夕食はスパゲティだってママが言ってたぞ」
 「やったぁ。あたし、スパゲティだぁい好き!」

ロシアの妖精マリヤ・ポコチンスキー

 「飛行機の関係で到着の遅れていたマリヤ・ポコチンスキー嬢がただいま到着なさいました。どうぞ、マリヤさん」
 「記者のみなさん、お待たせしちゃってごめんなさい。ただいまご紹介に預かりましたマリヤ・ポコチンスキーです。よろしくお願いします」
 「すでにご存じでしょうが、ポコチンスキー嬢は弱冠13歳でシェフチェンコ劇場にてオネーギンのヒロイン役タチヤーナに抜擢された天才バレリーナです。加えて、この春モスクワ大学の博士課程を修了なされた英才でもあります。日本文学を専門に研究しておられ、今回の訪日に際しまして通訳は一切つけておりません。記者のみなさまもご質問は日本語でどうぞとのことです」
 「なんや、沢木、ぼ~っとして。ははぁん、さてはおまえあのロシア娘に惚れたな。やめとけやめとけ。三流私大出て、こんなやくたいもない地方新聞の記者やっとるおまえとは人生の格が違いすぎるわ」
 「ち、違いますよ、柳谷さん。取材対象としてちょっと興味をそそられただけです」
 「若い若い。ええわ、そういうことにしといたろ」
 「それでは、みなさまからご質問をお受けしたいと思います。こちらが指名しますので、挙手を願います」
 「はいッ!」
 「さ、沢木。今日は俺のおともで現場の雰囲気を味わいに来ただけやろうが。はよ手ぇ下げんかい」
 「それでは、ええと、浜北新聞社さん?」
 「まかせておいて下さいよ、先輩。…ロシアの距離の単位を日本では露里(ろり)と翻訳することもしばしばですが、研究者としてのポコチンスキー嬢はこの事実についてどのようにお考えですか?」
 「グロロロロロロロ。くちばしの黄色いのが勢いこんで何を尋ねるかと思えばそんなことか」
 「なんだと、無礼な! ううッ、なんだ、この恐ろしいまでのプレッシャーは。ほとんど突風のような妖気が押し寄せて来る・・・うわっ」
 「ふふん、若造めが」
 「大丈夫か、沢木」
 「あいたた…ええ、なんとか」
 「命を取られんかっただけでめっけもんや。あれは逢坂新聞の今村征五郎や」
 「えっ。あれが今村征五郎ですか」
 「この世界で喰うていこ思たらあいつとだけは張り合ったらあかん。22歳で東大法学部を主席卒業した後、各官庁からの誘いをすべて断って逢坂新聞の事件記者になったという経歴だけでもふるってるが、それからのヤツの活躍ぶりはそれに数倍する勢いや。当時ほとんど潰れかけとった逢坂新聞社の売り上げが、ヤツが入社してから一年で数百倍以上に跳ね上がり、いちやく一流新聞社の仲間入りをしたのはあまりにも有名な、ほとんど伝説と化している話やで」
 「くそっ。きっとあの3メートルもあるような巨体でライバルを汚いやり方で始末してきたのに決まってるんだ」
 「それは違うで、沢木。ヤツの外見にだまされたらあかん。ヤツの一番の武器はその舌鋒の鋭さや。ヤツを前にしたら、どんなに韜晦の強い政治家もタレントも、文字通り丸裸にされてまう。ヤツが記者会見の席で潰してきた哀れな人間たちの数は十や二十じゃとうていきかへんで」
 「そ、そんなにすごいやつなんですか」
 「ああ。おまえも事件記者を続けたかったあいつには極力関わらんほうがええ…見ろ、今村が質問するで」
 「それでは、逢坂新聞さん」
 「今村や」「逢坂新聞の今村が質問するで」「鬼の今村が口をあくんや」「みんな、静かにせえ、今村がしゃべりよる」
 「しぃん」
 「…ときにポコチンスキー嬢は」
 「ごくり」
 「殿方のポコチンはお好きですかな」
 「ざわざわざわざわ」
 「(額ににじむ汗をぬぐいながら)どうや、沢木」
 「(蒼白な顔面で)おそろしい…悪魔のように完璧な質問です。あの悪魔的な知性に比べたら、かれの外見などとるにたらない小動物みたいな飾りだ。ぼくの質問は、あの寒い国から来たロリータの口からロリという単語を引き出せればと、ただ安直に自分のつまらない知識をひけらかしただけに過ぎない。そうか、そうに決まってる…大衆はあの美しいロシアの妖精が男性のポコチンを好きかどうかをこそ切実に知りたがっているに決まっている。ぼくは今かれが質問して、初めてその隠された、しかし何よりも明らかな事実に気がつくことができました。おそろしい、おそろしい男…今村征五郎」
 「あの。あたし」
 「ポコチンスキー嬢が今村の質問に答えるぞ」
 「ポコチン、嫌いじゃありません」
 「おお」
 「ポコチン、わりと好きです」
 「ああっ。寒い国からやってきた15歳の少女がむくつけき大男から発された質問に先端に球形のひっかかりのついたフロイト的に判断するならばカリ高ポコチンの直喩であるところのふっといマイクをちっちゃなおててでつかんで初冬の雪をおもわせるぬけるような白い肌を薔薇のピンクに紅潮させながらチロチロと愛らしい真っ赤な舌を見せつつたどたどしく回答する様子に記者団は全員前傾姿勢でうずくまってしまいました。怪物今村も例外ではありません」
 「カメラ、何してるカメラだ!」
 「駄目です、今村さん。みんなテントを張ってしまってそれどころじゃありません」
 「くそ、あの様子を写すことができれば部数倍増は間違いないのに!」
 「パシャパシャ」
 「誰や、あそこでフラッシュをたいとるのは。ここにいる全員が動けへんはずやぞ」
 「ああっ。局部をスーツのジッパーからぼろりと露出した沢木記者が望遠レンズを装着したカメラでポコチンスキー嬢を激写しています。それぞれがいったい男性のどの部位とどの行為を暗喩しているのかについてはあえて言及しませんよ」
 「チンポがテントを張って動けないなら、チンポを解放してやればいい。単純で明快な理屈さ」
 「でかした、沢木。大手柄やで」
 「(携帯電話で)あ、俺です。沢木です。今すぐ輪転機を止めて下さい。ええ。今日の夕刊の一面を差し替えるんです。(今村に視線を送りながら)見出しはこうです、『妄想のロリータ、ロシアの妖精はポコチンがお好き』」
 「いいんですか、今村さん」
 「ふふ、あの若いのなかなかにやりよるで。気に入ったわ。今日のところはゆずるとしようや」
 「見てみぃ、沢木、逢坂新聞の連中、ガウォーク状態でご退場やで! ざまぁみさらせ! ひゃっほう!」

 「よくやった、マリヤ。あれからCMとグラビアの依頼が殺到しているぞ。これで明日からの公演は大性交、いや、大成功をあらかじめ約束されたようなものだ」
 「うん、お父さん。ところでポコチンって何なのかしらね」
 「さぁ、クロサワとか、そんな日本の有名人の名前か何かじゃないのか」
 「ポコチンっていったい何なのかしらね…」

島本和彦的クライマックス予告・媾合陛下 THE MOVIE

      小鳥プロダクション制作

 路上に寝転がる黒人の酔っぱらいがまぶしさに目を開く。
 「”Wazzat?”(字幕:なんだ?)」
 空から無数の光がニューヨーク市街に舞い降りてくる。

      媾合陛下 THE MOVIE 予告編【映倫】

    ”西暦1999年 突如天空より飛来する無数の天使たち”

 エンパイヤステートビルの後ろから背中に羽根を生やした光に包まれた巨人が姿をあらわす。
 「”Is he an ANGEL?”(字幕:天使さま?)」
 両手を組んで見上げる少女。次の瞬間、巨人の羽ばたきが巻き起こす旋風が林立する無数のビルディングを紙細工のようになぎたおす。少女のマフラーが空を舞う。

    ”媾合陛下衝撃の最終回から八年 小鳥プロダクションが満を持してお送りする今世紀最後の一大官能ロマン”

  不気味に夜空を照らすサーチライト群。首相官邸を取り囲む数台の戦車と無数の武装した兵士たち。

       監督・脚本 小鳥満太郎

       テロップ「首相官邸内」

 「君に私のこの十年の恐怖がわかるか? 歴史からすればそれはほんの取るに足らないわずかな時間に過ぎないのかも知れないが…私は怖かった。私はただ、怖かったんだ」

       音楽 猪上源五郎

 「あなたは政治家として少々ロマンチストに過ぎるようだ。おい」
 「はっ」
 「な、何をする。君、わかっているのか、これは日本国に対する明らかな反逆だぞ」
 「もちろんですよ、総理。ですが反逆する対象である国家そのものが消滅してしまうとしたら、どうします?」
 「き、君たちは、まさか。この、この非国民らめ!」
 「これはまた時代がかった恫喝ですな」

       特技監督 円谷英二郎

 「我々は国家に殉ずるのではないッ! 我々は我々の思想に殉ずるのみであるッ!」
 「狂っている…あれは人間の言うことをききとげるような、生やさしい存在じゃないんだ」
 「知っています。我々が正しいかどうかはすべて後世の人間たちが決めることですよ。おしゃべりな総理大臣殿にはそろそろ歴史の舞台から退場していただくとしましょうか」
 鳴り響く銃声。どさりという鈍い音とともに床に広がる赤いシミ。

     ”彼らがもたらすのは人類への福音か、それとも”

       テロップ「米国ホワイトハウス前」

 演壇を、しわぶきの音ひとつたてず取り巻く数万の人々。演壇にあがり愛しげに人々を見渡す大統領。
 「国民のみなさん、すべては崩壊しました。我々の信じてきた国家という概念も、建国以来我々の誇り高き精神を支えてきた信念も、最後のよりどころである宗教でさえも、あり得る最悪の形で我々を裏切りました。すべては壊れてしまった。もう何の意味も無いかも知れないが、私に言わせて下さい。これは国民のみなさんに選ばれた国をあずかる大統領としてではなく、一人の個人として言わせて下さい。我々はずっと泣き続けてきました。我々の祖先がこの大地を初めて訪れた昔から、我々の幼い乳飲み子に惨めでない居場所を与えてやるためにインディアンたちの頭蓋をふりあげた岩でもって砕き、恐怖をはりつかせた瞳で生暖かにぬめる彼らの脳漿を浴びたその時から、我々はずっと泣き続けてきました。その涙の意味をここに集まったみなさんには知っておいて欲しい。我々は愚かだったが、罪のない人間たちを殺すほど愚かだったが、それでも我々は生きたかった」
 みじろぎひとつしない人々。

     ”滅びゆく営々と築きあげられてきた人類の歴史たち”

 「本日ただいまをもって、アメリカ合衆国の解体を宣言します」
 まろびでた老婆が演壇にすがるように泣き出す。

     ”我らの媾合陛下は襲いくる最強の敵に果たして勝利できるのか”

 左腕を光線に吹き飛ばされながら、自由の女神を破砕しつつヴァギナで大天使ののどぶえを噛みちぎる媾合陛下。
 「おまえの寄越した使徒たちはすべて殺した! さぁ、姿を見せろ、突然降臨し戯れに人類の歴史を幾度も無に帰してきた機械の神デウス・マキーナ、嘲笑する道化の神よ!」

     ”人類の原罪とは、我々の生命の真の意味とは”

 全身から鮮血をしたたらせ、天空に向かって咆哮するその悪魔的な姿。
 「私は人間だ! 私は生命だ! 私は…媾合陛下だ!」

     ”構想五年 総制作費200億 空前のスケールで展開する媾合陛下最後の戦い”

 「クオ・ワディス、ドミネ?(主よ、どこへ行かれるのですか?)」

     ”あなたは最後に何を見るのか”


        媾合陛下 THE MOVIE   

        COMING SOON...


 「(激しいノイズの向こうから聞こえるかすかな囁き)…ラ…ラ…ラヴ…」

ハンサムな彼女

  「 ゆりあ に ちんぽ が 」

 泣いている。どんな物事にも動じない、あの気丈な彼女が泣いている。
 彼女の目に溜まった涙がぎりぎりまで張りつめ、クリスタルを思わせる透明な青の球となってその頬を転がり落ちる。
 ぼくは彼女をなぐさめる言葉をかけることも忘れて、その様子をまるでスクリーンの向こうにあるすばらしい映像ででもあるかのように眺めながら、ただ馬鹿のように呆然と立ちつくしていた。
 ぼくはそのときになって初めて、彼女がどんなにそれというそぶりは見せずに、ぼくというどうしようもない男を守ってくれていたかに気がついたのだった。

 ぼくと彼女が初めて会ったのは、その年はじめての雪のちらつく、ある寒い日のことだった。
 街灯に灯がともり、周囲のサラリーマンたちは冷気に肩をすぼめながら暖かい家と家族のことを思いつつ足早に通り過ぎていく。それぞれが帰る場所を持ち、その頃のぼくは一人で、そうして彼女と出会った。
 人波に逆らうように立ちつくし、舞い降りる雪の来し方を追うように空を見上げる彼女は、女性には珍しいほどのたくましい骨格や太い眉などにもかかわらず、そこにいる誰よりも小さく、誰よりも孤独に見えた。
 互いにふと目を合わせたぼくと彼女は、しめしあわせたように同じ方向へ歩きだし、その日のうちにセックスをした。震えながら唇を重ねるぼくに、彼女は少し頬を赤らめながら言った。

  「 おまえ の くち は くさすぎる じごく いきだな 」

 ぼくは恋に落ちた。まるでその言葉がぼくに魔法をかけたように。

 ぼくは彼女に夢中になってしまっていた。口数が少なくて、ほとんど思うところを言わない彼女だけど、ほんのときどきハスキーな声で語られるウィットにぼくはしんそこ魅了された。
 ある日ぼくたちは昼食をとるために二人で中華屋に入った。掃除のまったくゆきとどいていない店内を見た瞬間からいやな予感はしていたのだけれど、最悪だった。愛想悪く注文を取りにきた身の丈4メートルはゆうにあろうかという老婆が置いた水のコップには、小さなゴキブリの死骸が沈んでおり、店内に流れるBGMは初代ゲゲゲの鬼太郎のオープニングだった。
 席を蹴って立ち去るべきかどうか、うろうろと迷うぼくを目で制してから、彼女はそのコップを取り上げると老婆に向かって突き出しながらこう切り出した。

  「 ばばあ のんでみろ 」

 ぼくは彼女の生き方の誰にも真似できない軽やかな鮮やかさにぞっこん参ってしまっていた。

 でも今になって気づく。ぼくは、彼女を至高の偶像のように崇拝はしたけれど、本当の意味で愛してはいなかったことに。彼女はそのことでどんなにか傷ついていただろう。
 いつのまにか泣きやんだ彼女は立ち上がると、ぼくの脇を音もなく通り過ぎていった。背後で玄関の開く音と、閉まる音がした。
 不思議と涙は出なかった。ただ、極上の映画を見終わった後のような、物語のほうが自分を取り残して去っていったというような、透明な喪失感が胸にことりと落ちた。
 彼女が最後にぼくの耳に残した囁きは、もしかすると彼女のぼくに対する愛情だったのかもしれない。すべては、もうせんのない想像に過ぎないけれども。
 耳朶に残る彼女の熱い息の感触。こだまする優しい言葉。

  「 すまぬ ゆりあ の ちんぽ を 」

~ Fin ~

家族ゲーム

 「あれは私が14歳になった誕生日のことだったわ、スコール」
 「リノア…」

 「お誕生日おめでとう、リノア。とってもきれいですよ」
 「あっ。熱いコテでもって両端を天に向けて反らしたカイゼル髭の(反らされた髭が暗示するのは男性生殖器だろうって? 馬鹿な!)見るもいやらしい精神の淫猥さを表出する風情が、娘の私にさえ一匹のメスとして本能的な危機感を抱かせるのに充分な、お父さん」
 「今何か隠しましたね? お父さんに見せなさい」
 「何も隠してなんかないわよ、何も隠してなんか…あっ」
 「ばりり」
 「なんですか、これは。乳首を起点として中央からせり出しはじめた、我々健康な成人男性にのちの豊満なバストへの連続性をいやがうえにも実感させる卑猥な、男を誘う青いつぼみ。こんな凶器を薄布一枚の下に隠しもっているなんておまえはまだレジスタンス活動をあきらめていないのですね。こんな危険物はお父さんが没収します」
 「きゃうっ」
 「精神的には表層の拒絶を表すが、それは見せかけにすぎず、肉体的にはこの上なく欲情していることを暗示する年齢制限ゲーム特有の記号を乳首をひっぱられたのに呼応して無意識に発話するような、そんなモラトリアム青年たちにとってたいへん都合のよいはしたない娘に育てた覚えはお父さんありませんよ」
 「お父さん、やめて、やめて…ひぐぅ」
 「おお、おお、なんとふしだらな。男にとって自分の襲撃を正当化するに都合のよい記号。裸体であるよりも男の劣情をよりそそる薄い布ッきれ一枚で申し訳程度にその最悪の凶器とも言うべきペドチックな身体を隠し、スカートには健康な張りつめたふとももをもっとも効果的にパンチラ的にちらちらと我々を誘うように定期的に見せる劣情発生装置として恐ろしいような深いスリットが入っています。そのスリットの深さは貴女の自前のスリットの深さを明示しているのに違いありません。お、お父さんに比喩的にではなく直接的に見せてみなさい」
 「やだ、やだよぅ」
 「この期におよんで蹂躙されることをあらかじめ神によって約束されたようなその語尾。この男にとってたいへん都合のよい抵抗の無さをして、なな何がレジスタンスか。早く見せなさい。おまえはお父さんがつくったのだからお父さんにはそれを図書館司書のように検死官のように冷徹な学者の目でもってなめまわすように閲覧する神にあらかじめ与えられた生得的権利があります。スリット、スリットォォォォォォ!」
 「ぬるり」
 「あっ」「あっ」
 「お父さん、リノア、早く降りてこないと誕生日の鶏の丸焼きが冷めちゃうわよ…あっ。(口を押さえて後ずさりながら)ジャ、ジャンクション」
 「おかぁさん、おかぁさん」
 「こ、これは違うんです母さん。使わないような場合でもちゃんとジャンクションしておかないと相性とレベルがあがらないんです。そう、それだけのことなんです。あなたが今勝手な想像を膨らましているようなことはちっともないんです」
 「嘘、嘘! あなたはそんなことを言う裏で毎戦闘で使っているのに違いないわ。その証拠に今のあなたの能力値は私とジャンクションしたときの数値の150パーセントは優に出ているじゃないの。あなたたち二人はそうやって私をたばかって陰で笑っていたんだわ。もう終わり、終わりね、楽しかった家族ごっこももうおしまいね」
 「ぱたぱたぱたぱた」
 「あっ。ち、ちくしょう。それもこれもジャンクションシステムがややこしいのが悪いんです」
 「おかぁさん、おかぁさん」

 「こんな最悪のトラウマを持つ私だもの、誰からも愛されなくて当然よね…(鉄柵に顔を押しつけて泣く)」
 「リノア…」

このHPというかたち ~一万ヒット御礼小鳥猊下講演禄~

 「よく官能小説なんかで男性自身って言葉がありますよね。これは要するにチンポを婉曲的に表現する記号なんですが、じゃあ、雑誌に女性自身ってありますよね。あれはつまり…そうなの?」
 「あっ。小鳥猊下が国民の中に潜在的に存在する、女性化粧品の容器はすべて男性器のかたちを模して作られていますといった俗説と同程度の信憑性を持ち景気を悪くさせている疑問をおずおずと発話しながら軽快なフットワークを使いながら御出座なされたぞ」
 「ああ、なんてエロティックなダンディズムなのかしら。私の女性自身も大洪水よ!」
 「ねえ、そうなの?」

 「……なわけで破裂しちゃったんですね。おや。今の爆笑どころなのになぁ。え、何? マイク入ってなかったの? ふぅん。あれっ。今日の責任者は女の子なの。へえ。若いねえ。年いくつ? 18。そうでもないか。男性経験はあるのかな。無い? いまどき珍しい娘さんだね。バイトいけないんじゃないの。ほぉ。母親に死なれて病気の父親がひとり。泣かせるねえ。浪花節だねえ。うんうん、あとはこの猊下君がいいようにしてあげるからさ。それじゃ早速だけど捧げさせちゃって。そう、捧げさせるの。二度言わせないでよ。いくら温厚な僕でもいい加減怒るよ。今の世の中貞操なんて邪魔なだけじゃん。いっそ無くしちゃえばこんな時給800円ほどの割にあわないバイトしなくても、もっと効率よく稼げる手段も生まれてくるじゃん。慈悲だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの御慈悲ですよ。けけけっ。
 「……ええっと、何話してたんだっけか。こういうのって計算のない無意識からの抽出が大事なんだよね。あ~ぁ、さっきまでいい調子だったのにムカつくなぁ。ねえ、きょう上山君来てる? あ、来てる。上山君に栄誉ある貫通式のおつとめを果たさせてあげてよ。そう、アニメプリントシャツの口臭とワキガと吃音のひどい、水平方向と垂直方向に同時にチャレンジされている、僕が自分の優越感を満たすために面接で猫背ぎみにこの世の原罪すべてをしょって立つ様子で入ってきたのを見た瞬間に一発採用したあの上山君にだよ。二度言わせないでよ。いくら温厚なぼくでもいい加減怒るよ、ほんとに。今日初めて出会った彼氏彼女の事情ならぬ情事がいったいどのようなものになるのか興味はつきませんよ。いやぁ、つまらないつまらないと不平を言う行き着いた日本人の毎日、あればあるもんですねえ、こんなイベントは。これだから人生あきらめきれませんよ。あ、ちゃんとビデオまわしといてね。講演終わったあとで見るからさ。あの上山君のことだから目が合った瞬間に射精しちゃうんじゃないの。あんな可愛い子だし、他の童貞バイト少年たちがやっかんで路地裏で死ぬまでボコっちゃうかもね。あ、そこまで追いかけてビデオまわしとくんだよ。エンディングは血塗れの上山君にスタッフロールがかぶさってさぁ。作品だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの作品ですよ。けけけっ。
 「……さてこのHPなんですが、みなさんからよく聞く批判にベタ書きでたいへん読みにくいというのがあります。せっかくそれができる方法が存在するのだから、文字の大きさを変えるだとか、文字の色を変えるだとかして、もっと視覚的に受け取りやすくしてみてはどうかというのが彼らの弁なのですね。しかしそれは違うと思う。それは、例えばここ数年のお笑い番組でよくやるような、笑うポイントをわざわざ視聴者に指示して下さる我々の知性と感性に極めて懐疑的な効果音やらテロップやらとまったく同じことをやっている。元の素材が多少おもしろくなくても、そういった付加的な要素で無理矢理に笑わせてやろうと言うわけですね。それらのやり口に似たテキスト加工行為は、書き手の知性に対しても読み手の知性に対してもこの上ない最大級の侮辱であるとぼくは思うわけです。あなたたちはもっとその侮辱に怒らねばなりません。
 「顔面を愛人のホステスとの情事の最中にずたずたに切り裂かれたみじめな男性の死体の映像であっても、股間に”禁”のマークを入れ、二回ほども『ぱお~ん』と象の鳴き声をかぶせれば、それはお笑いになるんです。こんな表層的な幻惑にまどわされてはいけません。あなたたちは発信する側が隠そうとしている本質をこそ見抜かねばいけません。例えば、元のテキストが本当のところ少しも面白くない、といったようなね。まァ、私の場合は常に何の秘し隠しもなくチンポ丸出しアヌスおっぴろげですからみなさんは何の心配もありませんけれどね。あっ。婦女子のみなさんは目のやりどころにお困りになるかな。(会場爆笑)
 「あ~ぁ、疲れたよ、ほんと。ねえ、どうだった? ちゃんと貫通した? どう、やっぱりあんな黙示録的な顔面の男に貫かれるのは辛そうだった? あっ、だめ。言わないで。こういうのって日活ロマンポルノとおんなじでちゃんとストーリーを追わないと面白くないからさぁ。ちゃんとビデオ撮れてるだろうね。いいとこで切れてたりしたら温厚なぼくでも怒るよ、ほんとに。ああ~ぁ、アワビ喰いてえなぁ、アワビ。店予約してきてよ。ちゃんとビデオも見れるようにセッティングしといてよね。シャワー浴びたらすぐ行くから。
 「……うう、寒い。えっ。なんでぼくがやらなかったのかって? 基本的にぼくってインポだしさぁ、それに18なんてトウが立ちすぎてるじゃない。触るのも汚くていやだなぁ。けがれですよ。ああ、それとさっきのやつ見て良かったら売り出すから。小鳥レーベル第一弾として。会社作っといてよ。これであの娘の家庭も救われるってものさ。現物を見たら病気で弱った親父さん、逝っちまうだろうけどね。二重の意味でね。けけけっ。いやぁ、いいことをしてすがすがしい気分だね。それにしても寒いよなぁ。ハイヤーまだ来ないの。渋滞であと二十分かかる? ふぅん。あれっ。今日はおかしな日だなぁ、また女の子じゃない。若いねえ。年いくつ? 15。ふぅん。捧げて。そう、ぼくに捧げるの。こら、待て。待ちなさい。スリット、スリットォォォォォォ!

委員長金子由香

 「どうしたんだい、委員長。急にトイレなんかに呼び出して」
 「ねえ、田口君…水は好き?」
 「はは、唐突だな。うん、好きだよ。ほら、ぼくって重度の童女趣味だろ。初潮前の少女をこよなく愛する、聖書に記された大罪の八つ目(the sin of lolita complex)の悪魔的な背徳の上にいる何の自己再生産性も無い、一個の動物としてその存在が地球にとって無益であるどころかむしろ有害なこのぼくだけど、水の流れる無垢を象徴する命を刻む音に耳を澄ましていると――その水の量は少女の小水と淫水の量に正比例するのだろうって? 何を破廉恥な!――生活時間を削ってまで誰も見ないHPを毎日更新するぼくという実存の内包する自己矛盾を鼻で笑いとばさずに尊重してくれる、暗喩的なピンク色のフリルの大量についた見かけは大仰だが実はたいそう脱がすことの容易な不可思議を具現したような衣服を身にまとった幼女が、眼前の水面に起こったわずかの波紋からぼくを絶望させる冷徹な物理法則をくつがえして出現してくれないだろうか、そして暗示的に濡れた前髪をぬぐおうともせずに挑戦的な小悪魔的な方法で見上げてぼくを誘惑してくれないだろうか、そして最初はそのような強気な様子だったのが少し冷たくあしらうとたちまち不安な雨の日に捨てられた子犬のようなふうになってしまいぼくの学生服の袖をちっちゃな親指と人差し指でつまみながらぼくにぼくの優越を確信させるやり方で顔面の三分の二もあるような巨大な眼球を明示的に濡らしながら哀願してくれないだろうかと夢想するんだ。何か圧倒的な暴力や社会権力という手段でぼくのアルバイト程度の資本主義社会における立場やこの動乱の世紀末に向けて露助ほども役に立たない繊細な自我を動揺させる恐れのないそんな永遠の弱者である者たちの上にする限りなく自己愛的な童女愛は、執行猶予期間内待機者であるところのぼくの身体と魂をこの上なく慰めてくれると思うんだよ。二重の意味でね」
 「田口君…」
 「ははっ、こんなことを話したのは委員長が初めてだな。それにしても、ああ、臭い(眉をしかめてハンカチを口に当てる)。ここには不潔な血を流す大人の女の臭いが充満しているよ。ぼくはこの辺で失礼していいかな。うわっ。委員長、何をするんだ。やめろ、早まるな。やめろ、やめろぉぉぉぉぉ…ずぼ」


 「ざわざわ」
 「なんだなんだ」
 「二階女子トイレの和式便座の中から毛むくじゃらの足が二本突き出しているのよ」
 「きゃっきゃっ。犬神家の一族みたぁい。もっともっとぉ」
 「あっ。あのO脚っぷりは顔面もまぁまぁ踏めるし、運動・勉強ともに中の上ではあるのになぜか婦女子を本能的に遠ざけてしまう雰囲気を終始かもしだしている二年F組の田口淳二君ではないか」
 「そうよそうよ。あのO脚っぷりは間違いなく同級生の田口淳二君よ。私が休み時間の雑談で女子生徒がよくやるような男子生徒評の最中になにげなく発した『かれってでも小学生とか好きそうよねえ』という一言が女子グループ内に妙に腑に落ちたといったふうな沈黙を引き起こしてしまい、たいそう気まずい思いをした田口淳二君よ」
 「ざわざわ」


 「田口君、あなたが悪いのよ。あなたが悪いの…」

風の歌を聴け

 「おや。(弾丸の装填されていない銃をぶらさげた男の満ち足りた穏やかな表情で煙草をもみ消しながら)もうこんな時間だ。みんな一週間元気だったかな。こちらはラジオ宮城、D.J.FOODがお送りする”KAWL 4 U"。これからの二時間、素敵な音楽と僕の洒落たトークをたっぷりと楽しんでくれると嬉しい。全国には春の気配を感じはじめた人もいるだろうけど、東北はまだ少女の純潔を暗喩する深い雪の中さ。
  今日はレコードをかける前に君たちからもらった一通の手紙を紹介する。読んでみる。こんな内容だ。

 『お元気ですか?
 毎週楽しみにこの番組を聞いています。私の入院生活も早いもので三年目になります。毎年この時期は、窓に写る風景も新しい生命の息吹を感じさせて、沈みがちな私の気持ちもうきうきと浮き立ちます。もっとも空調のきいた病室から何の現実的な連絡も持たない世界を傍観者として眺める私には、まったく意味の無いことかも知れませんけれど。
 お医者様(青髭の素敵なホモセクシャルです)が言うには、私の身体は進行性の二次元コンプレックスに侵されているのだそうです。ひどく厄介な病気なのですが、もちろん回復の可能性はあります。といっても、0,000000002%ばかりだけど……。お医者様の言葉をかりるならば、それはエヴァ初号機を起動させるよりは簡単だけれど、ネットから足を洗うよりは少し難しい程度のものなのだそうです。
 毎日毎日気の滅入るような、実際的な効果があるのかどうかわからないリハビリを続けています。昨日は大柄な白人の女性と黒い山羊が野原で交接しているビデオを八時間ぶっ通しで見せられました。その日のリハビリが終わる頃には、私自身の吐瀉物で床はいっぱいになっていました。お医者様は日々の積み重ねが大事なんだよとおっしゃいますが、このまま完治する見込みのない病気をひきずって何十年も、リカちゃんの髪型が変わったことにも気がつけないまま、一人病室で誰にも愛されず年老いていくのかと思うと、叫びだしたくなるほど怖い。
 夜中の3時頃に目が覚めると、ときどき自分の金玉からOA機器の発する電磁波の影響で精子が消滅していく音が聞こえるような気がします。そして実際そのとおりなのかもしれません。しかし一方でこれこそが、生身の人間を愛せないという最悪の罪に与えられる相応の罰であるという、奇妙に納得する気持ちもあります。私たちの上に訪れる滅びは、突然の空からの隕石などによる大騒ぎではなくて、このようなじわじわと迫り来る、気がついたときにはもう誰にもどうしようもなくなっているような、静かなものなのかもしれません。
 病院の窓からは私立の女子中学校が見えます。こんな場所から男に見られているという意識もなく、グラウンドで繰り広げられる痴態を眺めながら、この牢獄のような病室から這い出していって、彼女らのブルマァの芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込むことができたら……と想像します。もし、たった一度でもそうすることができたとしたら、何故世の中がこんなふうに成り立っているのかわかるかもしれない。そしてほんの少しでもそれが理解できたとしたら、リカちゃんの髪型が変わったことに気がつかないまま、ベッドの上で一生を終えたとしても耐えることができるかもしれない。

 さよなら。お元気で。……えっ。病名追加ですか。ははぁ、進行性のロリータコンプレックス。ちくしょう。』

 名前は書いてない。
 僕がこの手紙を受け取ったのは今日の午後3時頃だった。短くなった煙草を親指と人差し指でつまんで吸い終えると、雪の上にできた赤いシミにおおいかぶさるようにむせび泣く少女に万札を三枚放り投げてから、さくさくと民家の二階にまで及ぶほどに積もった雪の上をかんじきで歩いた。しばらく歩くと、小学校にあがるかそこらくらいだろうか、数人の幼女たちが嬌声をあげながら、寒さで頬を真っ赤にして雪合戦にうち興じているのに出会った。僕は二本目の煙草に火をつけると、路傍の石に腰掛けてその様子を見るともなしにぼんやりと眺めていたんだ。そうしているとね、急に涙が出てきた。泣いたのは本当に久しぶりだった。でもね、いいかい、君に同情して泣いたわけじゃないんだ。僕の言いたいのはこういうことなんだ。一度しか言わないからよく聞いておくれよ。

 僕は・あなたたちおたくが・大嫌いだ。

 あと10年も経って、このホームページや僕の言及したアニメ作品や、そして僕のことをまだ覚えていてくれたら、僕の今言ったことも思い出してくれ。
 彼のリクエストをかける。Rookyの『ねっ』。この曲が終わったらあと1時間50分。またいつもみたいな犬の漫才師にもどる。
 ご静聴ありがとう。」

猊下といっしょ

 「あれっ。もしかして自分、セルフィとちゃいまんねん?」
 「いやぁ、嘘みたいでんがな。こんなとこでふつう会いまんねんやろか」
 「ほんま奇遇やがな。最近もうかりまっか。立ち話もなんでっからとりあえず近くで茶でも飲みまんねん」
 「すんまへんやけど、いまツレといっしょでんがな」
 「さよか。そりゃ残念でおまんがな。どの人だす」
 「あそこに二人立ってるやんね。あれがウチのツレやんね。右のチンポみたいな真っ黒まんねん金髪まんねんがスコール言いまんがな。左の裸女まんねん痴女まんねん太股まんねんスリットまんねんがリノア言うでんがな」
 「いやでおますなぁ。ほんま、あいかわらずセルフィはおもしろおまんがな。いつまでも変わらへんのは自分ぐらいのもんやで、きみ。ほんまウチは嬉しだすわ」
 「また自分そんな上手ゆうて。ほな、ウチもう行くやんね。また会いまんねん」
 「もちろんやがな、きみ。また電話するやんな。トラビア魂は永久に不滅でんがなまんがな」

 「あっ。小鳥猊下が女学生の無意識に発する『おまん』という単語につぼいのりオがそれを発語するときと同程度の隠喩を感じて顔を赤らめながら、いつでも自前の恋の矢をするどく突き出せるように若干腰を引き気味に、袖口に名前は知らない、ソーメン状の飾りをつけ、乳首と局部を丸くくりぬいた全身にぴったりするラバースーツで御出座なされたぞ」
 「猊下くん、猊下くぅん。愛してるぅ。こっち向いてぇ」
 「こら、沙夜香。そんなふうにしたら、猊下がお困りになるだろう」
 「だってぇ」
 「心配しなくても神話的な存在である我らが猊下は、あそこにああして見えるのは私たちに次元をあわせてくれているだけで、実際のところこの大宇宙にあまねく普遍在し、沙夜香や他の婦女子たちの日々する衣類の着脱や排泄や入浴や動物的欲求の発散をいつも舐めまわすように隅々まで閲覧しておられるのだ。だから、我慢しなさい」
 「うん…わかったわ…寂しいけど」
 「いい子だね、沙夜香。猊下の御身体は誰か一人の婦女子のものではないのだから。その御姿を拝謁できるだけで畏れおおいことなんだよ」
 「嘘の関西弁を…」

 「しゃべるなぁッ!」
 「ドキュッ」
 「出たぁッ 小鳥猊下のワイルドパンチッ そのうっすい両肩から繰り出される小鳥猊下のワイルドパンチッッ」
 「きゃああ。セルフィが突然現れた変態性の闖入者に、全体重をのせた拳の内側で思い切り横っツラをはりとばされたやんね。そのインパクトの瞬間に砕けた頬骨が皮膚を突き破って飛び出し、鮮血を周囲にまき散らしたまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね。ああっ。パンチのあまりの勢いにセルフィの身体が風車みたく宙空で未だ回転を続けているやんね」
 「ビュビュビュビュビュ」
 「あっ。小鳥猊下が回転の巻き起こす風切り音に耳を傾けながら、ちらちらと健康な内股の間からのぞくパンチラに気を取られながら、そのエロ擬音から連想される現実の事象に思いを馳せつつ、初孫の顔を見る老人のように目を細めて野性の充足した男のする有憂の微笑みを顔面に浮かべておられるぞ。もともとが精神体であり、我々が当たり前にやるような、ちんちんを触るていどのことではオスの欲求を処理してしまえない猊下ならではの深遠な、神々しいとも言えるやり方だ。沙夜香、しっかり見ておくんだぞ」
 「うん、パパ」
 「グシャッッ」
 「きゃああ。重量を問わない空中で十二分に加速を得て、地面という凶器に向かって超高速で叩きつけられたセルフィという実存の顔面から地上数メートルにまで到達するほどの血が噴出したでんがな。噴出した血液の量と小鳥猊下の欲望の量は正比例するまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね」
 「嘘の関西弁を…しゃべるなぁッ!」
 「ドキュッ」
 「出たぁッ 小鳥猊下のワイルドパンチッ そのうっすい両肩から繰り出される小鳥猊下のワイルドパンチッッ」
 「きゃああ。猊下のワイルドパンチを顔面に頂戴した瞬間にウチという実存の意識から天地の区別は吹き飛び、砕けた鼻柱からの多量の出血がウチという実存の視界を真っ赤に染めたまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね」
 「(両手をもみしぼり瞳をうるませながら)猊下くん、やっぱり愛してる。愛してる…」

魁!男闘呼塾

 「目標前方500メートル!! 総員チンポかまえーっ!!」
 「せんずれい貴様ら!! せんずって貴様らのいただいた御種を祖国にお返しするのじゃー!!」
 「せんずりーっ!!」

 「ほぉ。なつかしい」
 「せんずり訓練ですか」
 「ふふふ、私も戦時中はずいぶんやらされたもんですよ」
 「今はもう呼び方もずいぶんハイカラになっていますな。確か、オ、オ」
 「オナニー」
 「そうそう。時代も変われば変わるもんですよ。あの頃は思想の自由も個人の人格も認められず、ただ配給される粗末なおかずで国家のためにせんずることをだけを教育された多くの若者の精子がむなしく空へと散っていった……」
 「今はもう呼び方もずいぶんハイカラになっていますな。確か、ス、ス」
 「スペルマ」
 「そうそう。あの頃はただ気持ちよくせんずりすることがどれほど難しかったか」
 「配給されるおかずが本当に貧弱でしたからな」
 「明らかに50は越えているだろうモンペ姿の農家の婦女が畑で家畜牛と交接するブルーフィルムとかねえ」
 「今のように天然色ではなかったですし、音声もついていなかった」
 「大衆劇場に行くと男の弁士が映像に声を当ててくれるんですが、野郎の悶える声を聞いても萎えるばかりでねえ。いっこうに勃起しない」
 「えっ、そうですか。私はすごく興奮したけどなぁ」
 「なつかしいですなぁ。しかし教育次官、なぜこのような昔の映像を我々に…それも緊急会議までして」
 「(体をふるわせながら)む、昔ではない。こ、これは現実なのだ」


 「ひとつ 塾生は自慰をつくすべし!! ひとつ 塾生は睾丸を尚ぶべし!! ひとつ 塾生は幼女の胸でするべし!!」
 「(裸の黒人男性が鶏の直腸を突き刺したチンポの接合部を誇示しながらカメラ目線の白い歯のこぼれる笑顔で写っているパッケージのビデオを取り出しつつ)だれんだ、これは!? 昨日貴様らの寮の巡検で見つけたもんだ」
 「あっ。あれは僕の秘蔵の…」
 「当塾では16歳未満の少女以外でのせんずりを厳禁しておる。覚えのあるヤツぁ前に出ろ。こんな男色なモンおかずに使って男闘呼塾男子がつとまると思っておるのか!!」
 「おれだよ」
 「も、桃尻娘。あ、あれは……俺の……」
 「フフフ、気にすんな…そいつは俺んだぜ」
 「男闘呼塾一号生筆頭桃尻娘か。いい度胸だ。…てめえら一号チンポは入塾一ヶ月になろうってのにまだこの塾がどういうところだかわかってねえらしい…てめえの場合は特にな、桃尻娘」
 「ああ」
 「よって今日は男闘呼塾名物せんずり行軍を行う」
 「ざわざわ」「せんずり行軍…!?」「なんか悪い予感がするのう」
 「フフフ、単純単純。ただせんずりすればええんじゃ(あおむけに寝転がりチンポを真上にひっぱりあげて、手を離す。右利きのものがしばしばそうであるようにわずかに左に湾曲したチンポは――いかなる物理法則に従ってチンポが左に湾曲してしまうかについてわからない婦女子にはお兄さんが直接指導してあげます――北北東を指し示す)よし、進路は北北東じゃーっ!! 官憲につかまっても男闘呼塾の名前だけは絶対にゲロすんじゃねえぞ!!」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」


 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「(先の割れた竹刀で塾生の背中を打ちつけながら)もっと手首のスナップをきかせんかーっ!!」
 「押忍ッ、教官殿。自分の目前にたるんだ靴下を装着した(この靴下のたるみが彼女らの身体のどの部位のたるみを暗喩するのかは時事問題に詳しい読者諸賢にはすでに言わずもがなの既知事項ですよね?)チンポみたいに浅黒い推定16歳以上の婦女子がおりますが、これではせんずりできませんがいかがしたらよろしいんでありますか!!」
 「ワッハハ。てめえの耳はどこについておる。せんずり、せんずりあるのみじゃーっ!!」
 「なるほどね……おれが行くぜ」
 「ああっ。見るも見事な50センチ大砲を装備した桃尻娘が、隆々と雲突くほどに勃起したそれを右手で無造作にひっつかんでせんずり行軍を再開したぞ」
 「あんな最悪のおかずを目の前にしていっこうに衰える気配が無いとは…フッ、どうやら俺たちはとんでもない男を大将に持ってしまったようだぜ」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「あっ。今度は退社後は光に集まる性質の蛾やそういった虫類のように外人のチンポに積極的に群がる、自己存在に対して種保存のためにより強いオスへといった程度の論理的客観性をしか持てない、人間である必要性の薄い一部ビジネスギャルのみなさまだ」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「あっ。今度は冬の大気に全身から白い湯気をあげる、一般的に言って大学卒学歴保持者に比べて実際的賃金や生活保障や社会的地位という資本主義社会内だけで有効ないつ崩れるかわからない曖昧で不確かな概念上においてだけ低い扱いを受ける傾向の強い肉体労働従事者のクマのような筋肉と手入れの行き届いていない密集した脇毛だ」
 「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
 「あっ。桃尻娘のする反復運動に湿った音が混じりはじめました。これは男性本能の一時的達成が近いことを我々に告げています」
 「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
 「あっ。今度はモグラが食物を食べ続けないと死んでしまうように、光線を顔面に当て続けないと死んでしまうという奇病の持ち主であるところの鈴木その子さんだ。追悼申し上げます」
 「しぼ~ん」
 「ああっ。桃尻娘の男性本能の一時的達成を間近にひかえていたはずの50センチ大砲がみるみるしぼんでいく…!!」
 「桃尻娘、桃尻娘~っ!」

野望の王国

 「さあ、いよいよ残り時間も2分を切りました。オールアメリカ大学選抜対東大のせんずり試合も14対14の同点! 東大の攻撃は直腸前立腺まで残り10cmといったところ。三年前までひ弱なボウヤだった東大せんずりチームが突然強くなり、関東大学せんずりリーグで優勝し、今またこうしてオールアメリカ大学選抜チームと互角にせんずれるのも……」
 「クォーターバットの片丘君と、アヌスマンの立花君の、二人の力によるものです!!」
 「さぁ、左手にボールを握り込んだ片丘の直腸に、立花がじりっじりっとものさしの挿入を続けます。ここは慎重にいかなければいけませんね、佐上原さん」
 「ええ、男性本能の一時的達成が近いからといってここであわててはいけませんよ」
 「オールアメリカ、胸の筋肉を小刻みに動かし、そり残しの脇毛をちらつかせ、必死のディフェンスを試みます」
 「ここらへんのやり方はさすがですね。凡百のチームだったらこのまま男性本能の一時的達成へかけあがらせてしまうところです。私たちの頃のアメリカチームと言えば、すさまじい肉食のパワーだけで押し切ってしまう、裏返せば守りの弱いチームだったんですが…」
 「片丘、その攻撃を目線だけで巧みにかわします。直腸前立腺まで残り7cm」
 「こういったテクニカルな部分ではやはり日本に一日の長があります。相手の執拗なディフェンスをかわすために並の選手はつい顔ごとそむけてしまいがちなんですが、それだとディフェンス側に次の防御のためのいらぬ情報を与えてしまう」
 「なるほど。片丘の角度が次第に上昇してきました。業を煮やしたオールアメリカはついに威信をかけて下半身の露出を開始しました。しかしこれは下手すると反則をとられて、東大チームの勝利を一気に確定させてしまう恐れがありますが、佐上原さん?」
 「残り時間が一分を切っていますからね。彼らも必死です。私があそこで、いや、あそこに立っていてもそうするでしょう。しかし、(ハンカチで額の汗をぬぐいながら)なんて緊迫感だ。私はここ十年でオールアメリカにブリーフまで脱がせたチームというのは知りませんよ」
 「残り時間は30秒を切りました。立花、ものさしを握る手を入れ替えてにじむ汗をぬぐいます。ああっ。オールアメリカ、バットを上下に揺さぶり下腹部に打ち当てることでパチパチと音を鳴らし始めました。こ、これはどういう…」
 「(蒼白な顔面で)恐ろしい…なんていうディフェンスだ。視覚的ディフェンスならば顔の角度や目線でまだ逃げようがある…だが、今オールアメリカがやっているような聴覚的ディフェンスは右手にバットを、左手にボールを握り両手のふさがっているオフェンス側には回避する手段がまったく存在しない。思い出しました。これは二十年前オッペンハイマー博士が提唱した戦法だ。その当時世界でだれも実践に移せる者はいなかったという話です。こんな教科書にしか見れないような高度なテクニックを身につけているだなんて、今年のオールアメリカは米せんずり史上最強だと言っても過言ではありませんよ」
 「ええ、ええ。しかし、そのオールアメリカと互角に渡りあっている東大チームも間違いなく日本せんずり史上最強を冠するに値すると言えるでしょう」
 「その通りです」
 「片丘、苦しそうだ。片丘の恋女房立花が片丘のひきしまった尻えくぼを撫でまわして勇気づけます。直腸前立腺まで残り3cm」
 「立花も辛いでしょう。せんずりは本当に孤独な作業ですから。誰かが手を貸してやることはできない、誰も助けてやれないんです。そしてその孤独を超克した人間こそが真のせんずり行者と言えるのです」
 「(涙ぐんだ声で)なんという感動的な光景でありましょう。忌まれ、さげすまするせんずりがなんという高い精神性をもってここ国立競技場のグラウンドに展開されていることか。この光景は現在地球をとりまく衛生網でもって世界中へリアルタイムに発信されています。観客は二重の意味で総立ちです」
 「わああっ、わああっ」「がんばれ、東大」「せんずり帝國日本の御名を今こそ取り戻すんだ」
 「お聞き下さい、この歓声。この試合はもはや一せんずりゲームという枠を越えて、戦後日本の歩んできた道の可否を象徴する高みにまで登りつめているのです!!」
 「ぎらり」「ぎらり」
 「歓声にオールアメリカのするディフェンス音が一瞬かき消された隙をぬって、立花一気に突き上げた~っ!!」
 「ああっ。あれは実戦せんずりの創始者・御古神慰兵衛が極めたと言われる直腸蠕動感知挿入式…!! まさか、一大学生に過ぎない立花君があの技を……!!」
 「片丘の鍛え上げられた腹の筋肉が収縮する!! ほとばしる欲望!! 達成です、男性本能の一時的達成の達成です!!」
 「ピピィ~ッ」
 「試合終了! 丁度このとき試合終了です! 14対15、東大みごとに全米大学せんずりチームに勝ちました! 日本せんずり界初の壮挙をなしとげました!」
 「(泣きながら)すばらしい、すばらしい。私はこの試合に解説者として立ち会えたことを神に感謝したい」
 「立花と片丘、この二人のすごい男は万年ドン尻の東大せんずりチームをついに世界のトップレベルに押し上げたのです!! そしてこれは同時にせんずり帝國日本の歴史的な勝利でもあります!!」
 「わああっ、わああっ」

野望の王国

 「いやはや大したもんだよ。我が東大せんずりチームが本場アメリカのチームを破るとはね」
 「アメリカ大学せんずりチーム唯一の敗けですからね。立花と片丘二人でアメリカの瞬発力だけが頼みの持久力に欠ける大チンポをねじ伏せたってわけですよ」
 「我が東大閨房術学部のトップの座を争う二人がね」
 「ところで諸君は進路を決めたかね。誰が私の教室に残ってくれるのかね」
 「(片丘・立花両名の隆々と勃起し、もうもうたる湯気で置かれた湯飲み茶碗の前に陽炎を引き起こす物体を装着した丸出しの下半身を自分のそれと見比べながら)まあ、立花と片丘のどちらかでしょう」
 「ぼくたちはどうせ残ったって片丘と立花がいたんじゃ教授になって女学生にせんずり以上のことを教授することはできやしないから、あきらめて就職するよ」
 「全くだ。ぼくも実はぼくの卒業した高校はじまって以来のオナニストだなんて言われて自信マンマンだったけれど、立花と片丘に会って天狗の鼻もぺしゃんこさ。そしてぺしゃんこになった鼻が暗示するのは欠陥のあるぼくのチンポで、同時に去勢をも象徴しているのさ。なぜって、男性の自信は一般的に男性自身から来るものだからね。そしてマンマンとわざわざ片仮名表記したことの意味がわからぬ君でもあるまい」
 「ああ、おれも度肝をぬかれたね。さすが東大、すげえオナニストがいるもんだと思った。この場合”ぬかれる”という動詞は、受け身であるし、『自分以外の力でせんずりを行う』という国語的解釈が適当だろう。つまり自慰に関して自信が持てなくなっている状態を暗示しているんだね。だからより誤解のない正しさを期すならば、目的語を”度肝”から”チンポ”におきかえるべきだろうね」
 「ぼくらはもうギブアップですよ。このテクストには『これ以上せんずり行為を続けることに』が挿入されねば発話者の意図が正確に完成しないと思うな」
 「うむ、私も同感だ。この二人ほどのオナニストは私も見たことがない。この二人のどちらかが残ってくれれば私は最高の後継者を持つことができる」
 「申しわけありませんがぼくは教室に残る気はありません」
 「ぼくも同じです」
 「(慌てて)じゃ、大蔵省かどこかに就職するのかい?」
 「ど、どうしてかね!?」
 「いや、どこに就職する気もない!」
 「官庁にも、企業にも!」
 「学校にも残らない、就職もしない……いったいそれではどうする気なんだ?」
 「ぼくたちが閨房術学部せんずり学科でせんずり学を学んだのは自慰が性交を超克する仕組み、快楽をつかむための方法を学ぶためだったと言っていいでしょう!」
 「人間の快楽構造のカラクリを研究し尽くし、ぼくたちが新しい自分たちの王国を築くための準備を進めてきたのだとも」
 「な、なんだって!?」
 「き、君たち、気でも狂ったのか……」
 「せんずりしすぎて頭がおかしくなったんだ……」
 「ぼくと片丘はせんずりチームに入って初めて知り合ったが、そのとき二人とも同じ野望を持っていることを知った」
 「つきあってみて――この場合”突き合って”と漢字表記するのが適当でしょうが、それだとあまりに婦女子に対して露骨すぎると言わねばなりますまい――我々は互いの男性能力を極めて高く評価するようになった。で、我々は互いに野望を達成するために協力することを誓ったのです」
 「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです。だから学校に残ってせんずり生活に没頭したり、就職してオナニー生活に身を削ったりするわけにはいかないのです」
 「き、君たちはまるで誇大妄想狂のようなことを」
 「我が東大閨房術学部始まって以来のせんずり行者の二人がどうしてこんな下らぬ妄想を」
 「(上半身には詰め襟の学生服、下半身には密集したすね毛とチンポ丸出しで立ち上がりながら)誇大妄想と思うなら思って下さい! 我々は自分たちの痴力と体力を信じているんです!」
 「(上半身には詰め襟の学生服、下半身には密集したすね毛とチンポ丸出しで立ち上がりながら)この世は荒淫だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒淫を制することができるのだ!!」

ドラ江さん回想録

 「(半眼で瞑想するかのように)初源にあった親ないし養育者との関係が、成長しそこから遠く離れてもう何の関係も無くなってしまったはずの個体になお与え続ける影響についてワシは今までに幾度かおまえに語ったと思うが、その影響の中で最もやっかいなもののひとつにそこで生まれた憎悪の転移がある。…人間の本質は善であるか悪であるか、多くの宗教が語る絶対悪はいったい存在するのかどうか…人間というフィルターを抜くならば答えはいずれの上にも落ちないやろうとワシは思う。存在は存在することそのもので究極に完結しており、我々の知恵がする付加的な概念は本来的に超越していると言える。突然の大津波に村ひとつが消滅する様を目の当たりにした老人が”水の悪神”という言葉を持ち出したとして、それはかれの眼前で発生した自然現象の本質とは圧倒的にズレてしまっている。神話や宗教はすべてこういった人間の対処しえない理解することのほとんど不可能な無意味性に対する、現実を虚構化する装置であったと考えられるが…それはまた別の話やな。話を元に戻そう。人間にとっての悪の概念とは養育者との関係において発生した初源の憎悪に端を発する。かれら無しにはありえない、自分を生かしてくれているはずの存在を憎悪すること、これは個体内の自己保存の系を脅かす認識や。それを意識したとき、たとえそれが全く正しい感情であったとしても、小さなかれにはどうしてもそれを否定しなければならないという状況が生まれる。抱いた憎悪の肯定は庇護を必要とする寄る辺無い自己の断絶を即座に意味するのやからな。つまり、自分を生かしてくれている両親に対して憎しみを覚えるだなんて、自分はなんて悪い子供なんだろう、というわけや。神話・宗教・物語、すべての知恵がする虚構における悪の概念はこの初源の自己否定に根があるのや。しかし、やな。結果として親ないし養育者はかれの中にある、かれらによって発生してしまった憎悪から守られるが、それは生まれた感情自体の消滅をまで意味するわけではないんや。行き場を失った憎悪の感情はどうなるかと言えば、本来の対象ではない対象へと無意識のうちに軌道を修正されてしまう。それがもし自分へと向けばかれは永遠に自分で自分を殺し続ける――比喩的にも、実際的にも――ことになるやろうし、もし外へと向けば自分でない誰かを殺し続けることになるやろう。このとき、憎悪の感情は転移していると言える。…知恵の上にもうけられた自滅へのプログラムとも言うべきこのプロセスから逃れ得た人間というのは歴史を振り返ってもほとんど存在しないのやないやろうか。それを考えるとワシは背筋の寒くなる思いがする。だからな、のび太。おまえは誰かがファイナルファンタジー8を最低のゲームであるといってスクウェアという会社の在り方にまで言及して感情的に批判するとき、もしかしたらそこに憎悪の転移が存在するのかも知れないと疑ってかからないかん。間違ってもその尻馬にのって自分自身の中にある憎悪をこれは格好の餌食と転移させたらアカンのや。初源に不全を抱えた人間たちのこのやり方を知り、おまえが自分に対して真に客観的になろうとしてはじめて、おまえはこの円環から逃れることができるかもしれないのやからな」
 「…わかったよ、ドラ江さん。ぼくが間違っていたよ」
 「ええのや。わかってくれたらええのや」